イタリア時間でびとくらし

イタリア時間「イタリア的クルマ社会」

イタリア生活で見つける「びとくらし」

イタリアでの日常生活の中にある、すこしだけ幸せに感じたり、すこしだけリラックスできたりするような「びとくらし」的な出来事を、マルケ州アンコーナ住まいのライターが紹介します。

イタリアに暮らす彼女の話しを聞いていると、度々、イタリアでは日本と全く違う時間が流れているように感じることがあります。しかもとても豊かな時間でした。時間の流れの違いの中に豊かさの理由が隠されているように思えてなりません。ぜひ、この理由を一緒に探してみませんか?

生活の足が「クルマ」である理由

日本に住んでいたとき、住まいは都市部にあり、基本的に近場の移動は徒歩か自転車。
公共機関として地下鉄やバスも充実していましたし、タクシーを捕まえることも難しくはありませんでした。
以前の私のように、これが当たり前のこととして慣れてしまっている人にとっては、
イタリアでの中都市以下の街での暮らしは、最初はとても不便に感じることでしょう。
というのも、想像には易いと思いますが、公共の交通機関網が非常に貧弱だからです。
本数という面でも、精密性という面でも。

電車で言うと日本ではJRが全国各地を巡り、また各々の都市には複数社の私鉄が存在する状況ですが、
こちらでは全国をTrenitaliaという一社が線路網をつないでおり、運行頻度に関しても日本のそれとは比べ物にならず、私が住む街にある唯一の駅で言うと、なべて1時間に1本程度の運行がある程度。
駅同士の距離は長いため、自宅から最寄り駅までの距離も必然的に長くなります。

他の公共機関で言うとバスになりますが、住む場所によっては運行が朝と夕方の通勤・通学時間帯のみなど、生活の足として利用出来るものでは無い場合もよく見かけられます。
幸いにも私が住む街からアンコーナへ向かうバス本数は数多く(といっても1時間に4本ですが)ありますが、
時間どおりに来ることは稀で、遅れてくるならまだしも、予定時刻を待たずに出発する場合もあり、予定よりもかなり余裕を持って時間を計算しておく必要があります。
目的地に行くために、バスを乗り継ぐ事もよくありますので時間のやりくりは本当に大変なものです。
ローマやミラノのように地下鉄やバス便が充実している大都市や、
ヴェネチアのようび地理的な問題がある都市以外ではクルマでの移動が必須となるのは、
この様な理由からなのです。

なんだかぜんぜん違うクルマを取り巻く状況

我が家の駐車場に3色のFiat車。イタリアらしい可愛さ。

まず1つ目。
未だに数多くの人がミッション車に乗っています。
オートマ車のほうが金額的に高くなるという大きな理由もありますが、
基本的に「知らないものは信じない」という、イタリア人特有の性質が由来していると思います。
オートマ車の運転の仕方(ただアクセルとブレーキを踏むだけで簡単に動いて止まる)を知らないのに、
「オートマ車の運転の仕方も知らないのに、乗れるわけないよ!」と言うイタリア人がどれだけ多いことか…。
新しいものの受け入れを拒否する姿勢が、まさにイタリアらしい。

二つ目。
ウィンカーを使わない。
とにかくウィンカーを使わない人が多いのです。
こちらも日本と同じで、曲がるときはもちろん、車線変更時などには必ずウィンカーを使うことが教本で示されています。
日本人のようにキッチリとウィンカーを利用しているのは、この街ではおそらく私一人だと思います。
それくらいひどいものなのです。
意地悪な表現ですが「自分さえ良ければオールオッケー」という彼ららしさがにじみ出ています。

三つ目。
とにかく道路の状況が良くない。
州や県、コムーネ(共同体)の経済状況に大きく依ると思いますが、とにかく道の状況が劣悪な場合が多いです。
穴だらけ、中央線や指示表示が消えかかっている、パッチワーク状態のアスファルト舗装。
とにかく悪路が多く、そのためか車のタイヤの消耗も非常に早いように思います。
あと、お気づきの方も多いかと思いますが、ランプ切れで走行している車の多いこと。
ランプの寿命が尽きているというよりも、悪路でのショックで接触が悪くなり、点灯していない場合が多くあります。また精密機器を搭載していますので、電気系統の故障も多くなります。

正義や思いやりもその国のルールありきで

イタリア人の運転マナーを嘆いてばかりではここでは生活をしていけません。
彼らの特性を理解し重んじて、自分自身の運転や道路上での振る舞いをこの国仕様に適応させる必要があります。

クルマ社会であるが故に歩行者への心配りがほとんどありません。
ドライバーは対向車には注意を払いますが、歩行者の存在を見落としがちになります。
交通ルール上では歩行者は日本と同様に保護されるべき対象なのですが…。
この段階でドライバーのモラルの低さを嘆いていても意味がありませんので、
ここは発想を変えて「歩行者がクルマに対して存分に注意を払う」努力が必要になります。

またドライバー自身にも同様のことが言えます。
他のドライバーは日本のように相手を尊重するような運転をしません。
交差点や道路の合流地点に信号が設置されていないことがほとんどです。
日本でならば自分の走らせているクルマの速度を落として、交差(合流)してくるクルマを先に通してあげるといったマナーは正義で一般的ですが、
そのマナーもここではある意味ルール違反になり得ます。
私がここで運転をし始めて間もない頃、私の車線に合流する為に停止線で停まっている車の存在を見つけました。
そこで「先に通してあげよう」と、車の速度を下げたのですが、相手はビクリとも動きません。
そんなことをしている内に、隣に座っていた主人から「危ない!何してるの!」と怒号が。
車の流れがある状態では彼らは基本的に合流はしてきません。
というのも、思いやりから生まれる譲り合い行動が特異な存在であるから当たり前です。
その上、私の後ろには車間距離があると言えども後続車がいます。
日本の公道では想像もつかないような猛スピードを出す車もいますので、そんな車道でスピードを落とすことはかなり危険な行為になります。
日本でならば「合流車がいるからスピードを落としているんだな」と説明不要で理解できますが、
その常識が一般的ではないこの国では、他のドライバーに状況を把握させることも難しくなることは当たり前です。

常識も所変われば非常識になり、また、思いやりも思い上がりになります。
日本人らしい優しさや他の人や周りへ気配りができることは、日本人が持つ素晴らしい国民性の一つですが、それも場所と状況によってであることが身にしみて理解できました。
種族や文化において多様性のあるイタリアですので、まずは自分のことを知って守ることが一番大事なことです。
日本で住んでいたらこんなことにも気づくことは無かったのでしょうね。


Atsuko Niwa 丹羽淳子

イタリア マルケ州在住。現在はワインや蜂蜜を日本に輸出する業務に携わり、翻訳やアテンド業を行う。 出版広告業界を経て、不動産業界の広報・採用業務に携わり、40歳目前に違う世界を見てみたくなりワイン業界へ転身。イタリアワインのエチケットを理解したいと思いイタリア語を習い始めたことをきっかけから最終的に41歳の冬にイタリアに渡り、現在で6年目に至る。 AIS認定ソムリエ、WSET Level2(ワインを理解するうえで不可欠な知識を得ることを目指すイギリスの資格)。

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