イタリア時間でびとくらし

イタリア時間「郵便屋さんがくれたもの」

イタリア生活で見つける「びとくらし」

イタリアでの日常生活の中にある、すこしだけ幸せに感じたり、すこしだけリラックスできたりするような「びとくらし」的な出来事を、マルケ州アンコーナ住まいのライターが紹介します。

イタリアに暮らす彼女の話しを聞いていると、度々、イタリアでは日本と全く違う時間が流れているように感じることがあります。しかもとても豊かな時間でした。時間の流れの違いの中に豊かさの理由が隠されているように思えてなりません。ぜひ、この理由を一緒に探してみませんか?

郵便屋さんがやってくる

先日のことになりますが、在宅時に自宅の呼び鈴がなりました。
時間にして午前11時。この時間帯の訪問者は大体は郵便屋さんの配達です。
なぜ普通の郵便配達なのに呼び鈴が鳴らされるのか。
まず、イタリアでの郵便配達がどのようなものなのか簡単にご説明しましょう。
郵便の配達は一日一度、月曜日から金曜日の平日のみです。
我が家のようなマンションタイプの共同住宅の場合は、多くの場合は郵便受けがマンションの共用玄関内部に設置されています。
「郵便屋さんが郵便受けに荷物を入れることが出来ないじゃないか!」という状況に陥るわけですが、郵便屋さんたちはマンションに住む誰かの家の呼び鈴を鳴らし「郵便配達です」と伝え、共用ドアを解錠してもらい入館します。
もし、入居者全員が不在の場合はどうするのかは不明ですが…。
ですので共用玄関を入ると写真のように全戸分の郵便受けが並んでいる場合が殆どです。
その郵便受けの多くはスリガラスを使った扉を採用していて、おそらく郵便物の有無を扉を明けずともわかるようにとの工夫なのでしょう。
中身が見えない郵便受けに慣れている私にとっては、「見られている」感じがして落ち着かないのも事実です。
ちなみに郵便受けに入らないような大きな荷物の場合は、郵便受けの上や地べたに置かれていたりすることもあるので、送られてくるモノには要注意ですね。

荷物の受取りは待っていてはいけません

さて話し戻します。
「Chi e’(キ エ)?」~どちらさま?~と聞くと、
「Buon Giorno! あなたに郵便を持ってきたわ。受け取りにはサインが必要なの」と聞き馴染みのある明るい女性の声。
イタリアでは受領サインの必要な配送物に関して、郵便屋さんはもとより配達員は住戸の前まで荷物を持ってくることはなく基本的に受取者が共有玄関まで取りに行きます。
普通郵便の場合は郵便受けに入れておしまいですが、サインが必要な場合は家を出ていかなければならなくて、ちょっと億劫。とんでもない格好をしているときなんて大変ですから。
渡伊当初はこの仕組みを知らず、荷物を戸口まで届けてもらうものと家内で待っていて、配達員からインターフォン通しで「ちょっと、何やってるの!下でずっと待っているんだけどですけど!」と怒られたのことが懐かしいです。そう、そして普通に怒られるのがイタリアらしい。

急いで一階まで降りると待っていたのは予想通り何度か会ったことがある配達員さん。
私と同い年くらいの彼女は、いつもにこにこと朗らかで、明らかに異国からやってきた住人である私に対してもフランクに対応してくれる素敵な女性。
その彼女が私を見るなり発した言葉に私は純粋に感動したのです。
なぜなら彼女はこう言いました。
「あなた、私のこと覚えてる? 私の記憶が確かなら去年結婚したはずよね! 一番最後に会った時、もうすぐ結婚するって言っていたはず。結婚おめでとう!」
どんな会話の流れで自分が結婚することを彼女に伝えたのかは皆目覚えていませんが、彼女がその会話を覚えていて、そしてわざわざ私にお祝いの言葉を伝えてくれるなんて思ってもいなかったことなので、本当に驚きました。

皆さんからクリスマスのプレゼントも沢山いただきました

 

郵便屋さんが届けてくれたもの

人とのつながりはインターネットや電話を介したものが多くなりました。
他人の属性や誕生日などもインターネットやSNSで知ることが簡単にできたり、季節の挨拶もLINEで済ますようになりました。
何もかもが便利で手間いらずにできる時代になり、その変化はまだまだ続くことでしょう。
でも、やはり人の優しさや人の思いやりを直接受け取ることは格別なもの、そして大切にしたいもの。
今回は郵便屋さんとの会話を紹介しましたが、ここイタリアでは日本に比べると付き合い方がまだ密に残っているように感じます。
また、日本人のように細やかな気配りができる人種ではないので、ちょっとした素の優しさに触れたときはとてもうれしくなります。
このイタリアらしい、ちょっとお節介気味な優しさ、これから来る世にもぜひ無くしてほしくないなと思うばかりです。

 


Atsuko Niwa 丹羽淳子

イタリア マルケ州在住。現在はワインや蜂蜜を日本に輸出する業務に携わり、翻訳やアテンド業を行う。 出版広告業界を経て、不動産業界の広報・採用業務に携わり、40歳目前に違う世界を見てみたくなりワイン業界へ転身。イタリアワインのエチケットを理解したいと思いイタリア語を習い始めたことをきっかけから最終的に41歳の冬にイタリアに渡り、現在で6年目に至る。 AIS認定ソムリエ、WSET Level2(ワインを理解するうえで不可欠な知識を得ることを目指すイギリスの資格)。

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