「着物、そしておふくわけ」

美徳と暮らしでbitokurashi

bitokurashiの主宰者小林朗子さんは整理収納コンサルタント。
単に住まいの整理を助けるという役割で終わるのではなく、整理するターゲットを住まい、ひと、街とへと広げ全体を俯瞰し、ひとの暮らしについて深く研究されています。
このコーナーでは小林さんが考える整理収納とは、彼女が提案したいbitokurashi (美徳と暮らし、人と暮らし)とは何かをライターによる書き起こし形式でご紹介します。
みなさんが、このbitokurashiの思いを感じてくださりますように。

※当サイトの主宰に対してインタビューを行い記事にしています。よって、敬称を使用しています。

事始めで原点に

整理収納コンサルタントとして活動をし始め、高齢者の方のお住まいにおうかがいした際に袖を通すことが無くなった数多のお着物たちを拝見しました。
日本の伝統として世界に広く知られる文化の一つであるものの、現代的な生活には不向きな点もありタンスの肥やしと成り変わってしまっている姿を目の当たりにし、その着物たちに新しい使命をあたえてあげることが必要だ、という思いから始めた事業が「おふくわけ」です。
事業というと大層なのですが、この箪笥に眠る着物たちを持ち主の方だけではなく、その他の人達へ「おふくわけ」することによって、モノにもう一度命を吹き込むにはどうしたら良いのか思案し、2016年に着物や帯をバッグやポーチなどの小物に仕立て変えてお譲りすることを一人ではじめました。

今年で5年目になる「おふくわけ」。
古いものをアップサイクルして販売するためには努力と知恵が必要で、環境や社会に良いサイクルを作り出しているという自負はあるものの、思っているようにうまくはいかないことも多く、相変わらず試行錯誤を続ける毎日です。
ただ、事業としての成り方のみに目を向けるのではなく、そのものの本質に目を向けてみよう年の始めから着付け教室に通いだしました。

着物を身につけるということ

知り合いの方が偶然にも着付けの先生になられたとお聞きし、その方へ通わせていただくこととなりました。
想像していた通りに着物を身に纏うことは時間がかかるもので、そもそも着装するために使うモノだけでも大変な数になります。
着物、肌襦袢、帯、帯留め、半襟、衿芯、などなど、超初心者の私には何一つとして欠かすことができないもので、着付けをスムーズに行うためには、これらの小物を前もって準備をする必要があります。
小物を準備すると言っても、もちろんその色や形を合わせたり、出かける場所によってTPOに合うしつらえにしなくてはいけません。
考えをまとめて準備をするだけでも時間がかかるので、出かける前にさっと準備することは難しく、前日にはある程度の予定をあたあの中で組んでおかないといけないことを実感しました。

そして、この感覚は、おのずと子供の時の習慣を思い出させたのです。
「就寝する前に次の日に身に着ける洋服をすべて準備し枕元に置いておくこと」。
母から受けた躾けの一つだったのですが、時間をうまくつかうことや、出掛ける前に慌てて身支度を整える必要が無いことで気持ちにゆとりが生まれることの大切さを意せずして身につけていて、「着付け」を通して、改めてその心を新鮮に感じ取ることができました。
着るものの準備を前もって行っておくことで、ボタンがとれかけていたり、糸のほつれがあったり、という突然のトラブルも解消することが出来ます。
社会人、成熟した人間としてのエチケットとしても役立つことも当然ですね。

着物のことをもっと深く知りたいと通いだした着付け教室ですが、その目的とはまた違う暮らしかたの原点を垣間見ることが出来ました。
古いモノを次代に物質的につなげることを第一の目的としていた「おふくわけ」で、人とのつながりがぐんと増えたことの他にも、この様に私自身にも刺激と発見を与えてくれる大切な存在です。
昨年から続くコロナ禍で、制限のある生活を課されげんなりする毎日が続いていますが、こんな非常時だからこそ今までできなかったことを始められてみても良いかも知れません。
新しい気づきがきっとありますから。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

数年前に着付けを習い、一通り自分で身に着けることができるようになりましたが、その行程の長さと、美しく着るバランスの難しさに何度もくじけそうになったことを思い出しました。呼吸を整えて端を整え折り目を合わせて仕上げていく流れに、気持ちが自然とシャンとしていくことがなんとも爽快に感じたものです。もう多分一人では着れないでしょうが…。

4月1日公開予定の次回では、朗子さん流のお付き合いの仕方についてご紹介します。
お楽しみに。
みなさんも小林さんに質問したいことがありましたら、ぜひメールやインスタグラムでのDM、メッセンジャーなどでお送りください。

聞き手と書き手:Atsuko Niwa

当サイトの画像やイラスト、文書等の無断転載・無断使用はお断りいたします。ご使用をご希望される場合はお問い合わせください。

Akiko Kobayashi 小林 朗子

不動産関係の企業数社にて広告・広報業務を担当、在職中に整理収納アドバイザー1級資格を取得。 その後、武庫川女子大学大学院修士課程にて生活環境学を研究し、現在は整理収納コンサルタントとして、一般家庭や事務所の整理収納業を担う。その傍ら、使い手の無くなった着物や帯を新しい形へとアップサイクルする”Ofukuwake”や、各種セミナーや書籍監修などで活動。coordinationの代表、株式会社喫茶部代表。

https://www.coordination.work

記事一覧を見る

カテゴリー内の最近更新された記事

  • vol.9 高齢期の「整理収納」に関する意識調査

    人生の最期に向けた準備や意識

    身の回りのモノの整理や遺産相続についてなど、生前に自分がしておきたいことを考える時間はとれていますか。アンケート調査から「終活」の準備への意識を読み解きます。

  • vol.8 遺品整理業者に聞く「生前整理」の準備

    遺品整理の実情とは

    高齢者が行う「生前整理」と遺族が行う「遺品整理」。終活は、高齢者本人だけでなく、家族みんなで取り組むテーマです。

  • vol.7 高齢者住み替えアドバイザーが語る高齢期の整理

    高齢者の「住み替え」のタイミング

    高齢者の「住み替え」はどのようなタイミングが良いのでしょうか。また「住み替え」に伴うモノの移動や処分はどのように行われるのでしょうか。高齢者住み替えアドバイザーから学びます。

  • vol.6 「モノ」への意識に関する調査

    家の中のモノの量とモノを捨てること

    家の中のモノの量やモノを捨てるということに関して、アンケートをもとに性別や年齢別に比較しています。家の中でどのようなモノが多く存在し、どのようなモノが捨てられないのでしょうか。

  • vol.5 暮らしのなかのモノの変化

    「生活財生態学」とは?モノを生態学的にとらえる

    戦争や産業の発展などの社会情勢の変化は、家庭内のモノにも大きな影響をもたらしていました。日本の家庭に保有される生活財を調査した「生活財生態学」の研究から、モノの変遷を読み解きます。

  • vol.4 「整理」に関する書籍の変遷

    書籍から読み解く「整理収納」への関心

    今では広く使われるようになった「断捨離」や「終活」といった言葉は、いつ誕生したのでしょうか。「整理」に関する出版書籍から、時代とともに変化する言葉やターゲット層について読み解きます。

  • vol.3 高齢社会の実態-家族構成と一人暮らし-

    高齢社会の実態をデータから読み解く

    日本の高齢社会の実態を理解したうえで、高齢者の「整理収納」における課題を考えます。

  • vol.2 既往研究から探る -高齢者と住み替え-

    「高齢者」「住み替え」「モノの整理」に関する先行研究のまとめ

    高齢者の住み替えやモノの整理に関して、これまでの研究ではどのようなことに着目し、どのような結論を見出しているのでしょうか。過去の研究内容を分かりやすくまとめました。

  • vol.1 高齢社会における「整理収納」

    高齢期に向けた整理収納の課題とQOL向上のヒント

    暮らしにあふれるモノは、人生の節目ごとに見直しが必要です。高齢期には生前整理や遺品整理と向き合う場面も増えますが、自分らしく整えることが、安心と心地よい暮らしにつながります。

  • bitokurashiリニューアルのお知らせ

    みなさま、はじめまして。あるいはお久しぶりです。「bitokurashi.com」をご覧いただき、ありがとうございます。 2017年7月にスタートした「びとくらし」は、2025年9月に内容やコンセプトをリニューアルをさせ […]

  • 今月の旬を味わう「みかん」

    季節がかわるごとに、いろいろな食材を目にします。 「旬」の食材をいただくことは、その美味しさはもちろん、自然に共調し心身ともに健やかにしてくれます。 しかしながら、毎日を慌ただしく過ごしていると、いつの間にか時間が目の前 […]

  • イタリア時間「年の終わりは忙しなく」

    イタリア生活で見つける「びとくらし」 イタリアでの日常生活の中にある、すこしだけ幸せに感じたり、すこしだけリラックスできたりするような「びとくらし」的な出来事を、マルケ州アンコーナ住まいのライターが紹介します。 イタリア […]