今回からの記事は、bitokurashiを立ち上げた小林朗子による「暮らしの整理収納に関する研究―高齢期におけるモノの整理収納の特性について―」(2016年修士論文)を2025年に改めて現代の内容と比較し、連載をお届けして参ります。
<以下論文本文>
序章
01 研究の背景と目的
私たちの暮らしには、家具や家電、ファッショングッズ、生活雑貨、食品などの「モノ」が存在し、これらのモノは家の中を満たし、私たちの暮らしを満たしている。
近年、家庭内におけるモノの「整理収納」が主婦層を対象に注目を集め、整理収納方法や整理収納グッズが雑誌や書籍、TV などで多く取り上げられるようになった。ここで「整理」とは、モノの量や内容を把握し、整えられている状態を示し、それが収められている状態を「整理収納」とする。整理収納は、家族構成やライフステージ(新婚期・育児期・教育期・子独立期・老夫婦期など)の変化によって、そのあり方にも変化が求められる。ライフステージの変化で新しいモノが家に持ち込まれた時に、モノが同じ状態のまま存在すると、家の中で停滞し続ける。モノが増加するたびに整理を行っていかなければ、モノは増える一方である。そのため、定期的な整理や見直しを行う必要がある。
「モノを「整理収納」する」ということは、高齢社会においてもひとつの課題である。日本の顕著な高齢化に伴って、人生の最期に備えて元気なうちに自分の財産や持ち物を整理・処分する「生前整理」、最終的な家のモノの整理を行う「遺品整理」が重要視されるようになっている。子供がいる場合には、子供世代が遺品整理を行い片付けをすることができるが、自分のことは自分で整理したい、残す人に迷惑はかけたくないという高齢者も少なくない。また、近年は子供のいない独居が増加傾向にあり、最終的にモノの処分を誰が行い、また託す場合には誰に託すのか、生きているうちにどこまで整理を行うのか、といった課題が一層切実なものとなっている。
このような背景から、本論文では高齢者の「整理収納」における課題と、高齢者と他の年代で異なる特性について明らかにすることを本研究の目的とする。また、高齢者の「整理収納」による QOL*1の向上の一助となる提案を試みたい。
02 研究方法と構成
本論文の構成として、第1章では「整理収納」の関連出版書籍の傾向調査から社会的背景、一般社会での「整理収納」の課題を確認する。次に第2章では、暮らしに欠かせないモノについて、高度成長期からどのように変化したのかを文献から読み解く。またインターネットを利用して実施した「モノの「整理収納」」に関するアンケートから、高齢者の「整理収納」の特性、高齢者と他の年齢層でモノへの意識に相違があるかを分析する。
第3章では、高齢者に携わる住み替えアドバイザーと遺品整理を行う方にインタビューを行い、各々が考える高齢者における「整理収納」の課題をまとめる。そして第4章では、インターネットを利用したアンケート調査から得られた結果をもとに、今後、高齢期を迎えたときにどうしたいかや、遺品整理の経験の有無や感想についてまとめる。第5章では実際に高齢期に住み替えを経験し、高齢者施設へ入居された方へのヒアリングをもとに、どのような経緯で「住み替え」を決断し、家の整理を行ったのか、具体的な事例を提示する。第6章では、高齢者の「整理収納」における課題と他の年齢層との違いについて参与観察法により調査、分析を行う。
以上を総括し、終章において、高齢者の「整理収納」における課題と他の年齢層と異なる特性についてまとめる。それを踏まえ、高齢者の「整理収納」によるQOLの向上の一助となる提案を試みたい。
<注釈>
*1 QOLは、Quality of Lifeの略であり、「生活の質」。人間らしく、満足して生活しているかを評価する概念











