vol.2 既往研究から探る -高齢者と住み替え-

「高齢者」「住み替え」「モノの整理」に関する先行研究のまとめ

前回に引き続き、bitokurashiを立ち上げた小林朗子による「暮らしの整理収納に関する研究―高齢期におけるモノの整理収納の特性について―」(2016年修士論文)を2025年に改めて現代の内容と比較し、連載をお届けして参ります。

<以下論文本文>

序章

03 「高齢者」「住み替え」「モノの整理」に関する既往研究

 本論文のテーマに関係する既往研究について、「高齢」「住み替え」に関する研究と「モノ」「整理」に関する研究に分けてCiNii*2で調べた結果をまとめる。

0.3.1 「高齢者」「住み替え」に関する既往研究

 『デンマークにおける施設から高齢者住宅への変遷‐「できるだけ長く自宅で」から「早めの引っ越し」への政策転換を中心に‐』では、デンマークの高齢者向けの住宅政策についてまとめ、そこから日本の高齢者福祉の発展に資する指針を提言している [松岡, 2004]*3。
 また、高齢者の住環境の変化における体調変化、負担などについてまとめられている論文がいくつか見受けられた [古賀・ 横山, 2012]*4 [水野,・大坪, 2009]*5 [筒井・児玉, 1992]*6 [清水・野口・眞嶋, 1997]*7 [筒井・児玉, 1992]*8。その中で、『高齢期の転居の実際と環境評価 引っ越し経験アンケート調査の分析』では、転居の際に持ち込んだモノの「満足度」調査が行われている*9。
 山田・山口・髙田らによる研究は、高齢期の住み替えで希望するモノの持参量を調査している。調査結果から、今後必要となる住戸面積や収納スペースについてまとめられている [山田・山口・髙田, 2013]*10 [山田・山口・髙田, 2014]*11。
 三宮・鈴木・黄らは、「高齢期における転居は多大な精神的負担を与えることが指摘されている」ことに視点を当て分析を行っている。転居後もこれまでと同様の生活が継続できる居住空間が望ましいとした上で、サービス付き高齢者住宅における住生活と入居者の心身状況を関係づけて考察し、質の高い高齢者住宅の住空間のあり方を明らかにしている [三宮・鈴木・黄, 2015]*12。
 上記の研究では、高齢者施設への建築的・空間的観点から間取り調査や仕様設備、福祉サービス、また住み替えにおける心理的な変化に着目した調査・分析が行われていることが分かる。

0.3.2 「モノの整理」に関する既往研究

 中島・沖田・一棟・上野・塩谷・上林による「家族周期別モノ保有の検討」では、家族周期を3段階に分けて、生活用品の保有方法に対する評価がどのように異なるかを分析し、収納空間標準化の基礎的資料とすることを目的としている。家族周期は子供の学年で分けられ、Ⅰは未就学の子供をもつ家庭、Ⅱは小学4~6年生をもつ家庭、Ⅲは女子大生をもつ家庭である。それぞれの周期における保有の傾向には明確な差異が認められたという結論を示している [中島・沖田・一棟・上野・塩谷・上林, 1985]*13。この研究は今回の研究対象とは異なる属性ではあるが、モノの保有の調査研究として意義深いと考える。
 『生活財の管理の外部化に関する基礎調査 : レンタル用品の利用実態と利用意識』は、生活財管理の外部化の基礎調査として、レンタル用品の利用実態と利用意識調査を行っている。生活財はライフステージやライフスタイルによって異なり、それらはレンタル用品として選択できることが望まれているとし、また日常生活で欠くことのできない生活財と区別した収納空間が必要であることを記している [冨士田, 1999]*14。
 橋本は、世界30カ国でシリーズ累計300万部を超えるベストセラーとなった近藤麻理恵著『人生がときめく片づけの魔法』を取り上げ、現代社会において「片づけ」が職業として成立し、大きな影響を持つようになった背景とその社会的な意味を示している。研究の中では、近藤の「片づけ」という行為への意味づけと辰巳渚、栗原はるみ、マーサ・スチュワートの考え方との比較を行っている。橋本は、「「捨てる」「収納する」といった試行錯誤の段階を経て洗練され、自分がときめきを感じる最小限のものだけに囲まれることが理想的だという「引き算」の美学に到達した近藤の提案は、資本主義の限界を痛感しつつある現代人に価値観の転換を迫るものとして、国境を超え、インパクトを与えることができたと考えられる」と述べている [橋本, 2016]*15。

 これらの既往研究を踏まえ、本論文は、高齢者の「整理収納」における課題と特性を明確にすることを目的とする。また、高齢者の「整理収納」によるQOLの向上の一助となる提案を試みる。

04 用語の定義

・モノ
家庭内に存在する有機物を指すが、それに限らず記憶や思い入れのある写真や土産などの感情的な側面を含めたモノも含める。
(参考)
「一つの」を意味するギリシア語系の接頭辞。Mono-(モノクロ、モノトーン、モノレール等)単なる物理的存在としての物(thing(s))と同じ意味で使われることもある。経済学の「モノ」との混同からか。 経済及び経済学においては、「ヒト」「モノ」「カネ」の 3つの要素が経済活動を構成要素として使用される際にはカタカナで表記する。

・整理収納
モノの量や内容を把握し、整えられている状態を「整理」とし、それが収められている状態を「整理収納」とする。

・高齢期
日本の統計上、前期高齢者は 65 歳から 74 歳まで、後期高齢者は 75 歳以上とされている。この前期高齢者と後期高齢者を迎える期間を高齢期とする。

・終活
人生の終わりを迎えるための活動。人生の最期を迎えるにあたって準備。2009 年『週刊朝日』が連載記事名に「現代終活事情」と付けたことがはじまりといわれる。

・高齢社会
厳密には以下参考に記載した 3 種類が WHO(世界保健機構)によって定められているが、本論文では高齢化の進む社会を指す。
(参考)
1高齢化社会:高齢化社会(総人口に対して 65 歳以上の高齢者人口が占める割合)が7%を超えた社会
2高齢社会:高齢化社会(総人口に対して 65 歳以上の高齢者人口が占める割合)が 14%を超えた社会
3超高齢社会:高齢化社会(総人口に対して 65 歳以上の高齢者人口が占める割合)が 21%を超えた社会

<注釈>
*2 CiNii(NII 学術情報ナビゲータ[サイニィ])は論文、図書・雑誌や博士論文などの学術呪法で検索できるデータベース・サービス。
*3 松岡洋子 (2004)「デンマークにおける施設から高齢者住宅への変遷‐「できるだけ長く自宅で」から「早めの引っ越し」への政策転換を中心に‐」,2004 年 10 月社会学部紀要第 97 号
*4 古賀紀江,横山ゆかり (2012)「高齢期の転居の実際と環境評価 引っ越し経験アンケート調査の分析」,2012 年 9 月日本建築学会大会学術講演便覧集
*5 水野優子,大坪明 (2009)「住み替えに伴う居住者の住環境意識の変化に関する研究-兵庫県西宮市浜甲子園団地を事例とし‐」,2009年8月日本建築学会大会学術講演便覧集(東北)
*6 筒井孝子,児玉桂子 (1992)「高齢者住宅への転居が居住者の適応に及ぼす影響(1)‐住宅の建築条件と建築クレームの変化‐」,1992年8月日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸)
*7 清水季史,野口孝博,眞嶋二郎 (1997)「戸建住宅からマンションへ転居した高齢者の生活変化と住要求‐高齢者にとって魅力的な集合住宅を目指して‐」,1997 年 3 月日本建築学会北海道支部研究報告集 no.70
*8 筒井孝子,児玉桂子 (1992)「高齢者住宅への転居が居住者の適応に及ぼす影響(1)‐居住者の社会的・心理的適応の分析‐」,1992 年 8 月日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸)
*9 3に同じ
*10 山田雅之,山口健太郎,髙田光雄 (2013)「高齢期の住み替えを想定した際のモノ・家具の持参量‐高齢者向け住宅の住戸に関する研究(その 1)‐」,2013 年 8 月日本建築学会大会学術講演便覧集(北海道)
*11 山田雅之,山口健太郎,髙田光雄 (2014)「高齢期の住み替えにおける衣服の機能持参量‐高齢者向け住宅の住戸に関する研究(その 2)‐」,2014 年 9 月日本建築学会大会学術講演便覧集(北海道)
*12 三宮基裕,鈴木義弘,黄昞峻 (2015)「サービス付き高齢者向け住宅居住者の住まい方に関する事例考察」2015 年九州保健福祉大学研究紀要
*13 中島 喜代子,沖田 富美子,一棟 宏子,上野 勝代,塩谷 寿翁,上林 博雄 (1985)「5027家族周期別モノ保有の検討 : 住宅の収納空間の標準化に関する研究(その 2)」1985 年
*14 冨士田 亮子 (1999)「生活財の管理の外部化に関する基礎調査 : レンタル用品の利用実態と利用意識」,p43-51
*15 橋本嘉代 (2016)「現代社会における「片づけ」という行為の意味 : 片づけコンサルタント・近藤麻理恵の「人生を変える」片づけ術に注目して」,p13

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