第2章 生活におけるモノとの関わり
2.1 本章の視点
第1章では、高齢社会における家族構成から「整理収納」の課題を確認し、また出版書籍をもとに、「整理」はどのような視点から関心を持たれてきたかを把握した。
本章の「2.2」では、現在の高齢者について、これまでの暮らしにおけるモノとの関わりを把握するため、『生活財生態学』のデータに当てはめて読み解いていく。次に「2.3」では、「モノの「整理収納」」に関するアンケートをもとに、高齢者の「整理収納」の特性の有無やその他の年代とモノの意識に相違があるかを確認する。
2.2 「生活財生態学」からこれまでの生活実態を捉える
これまでの生活文化の変遷について、1992年実施調査をまとめた『生活財生態学III*40』を参考に読み解き、『生活財生態学(1975)*41』と『生活財生態学II(1982)*42』も合わせて把握していく。
2.2.1 「生活財生態学」とは
「生活財生態学」の研究は、商品科学研究所*43と株式会社CDI*44により、日本の家庭に保有される生活財について行われた調査である。生活財を含む「モノ」について『生活財生態学III』では以下のように説明している。
モノを「商品生産生活のための機械や道具」と「商品生産以外の生活の用具」の2つに分けた際に前者を経済学的には「生産財」と呼び、後者を「消費財」と呼ぶ。また、商品生産以外の生活の用具の中でも家具や冷蔵庫は「耐久消費財」に分類される。「消費財」という呼び方はあくまで生産を中心に考えた、その反対語でしかない。私たちは消費(費やしてなくなること)それ自体を目的としてモノを持っているわけではないから、その呼び方はおかしい。では何のためにこんなにモノを持っているのか。生活を便利にする道具、商品以外の趣味的な生産(手工芸)の道具としてか、それとも密かに持っているとそれ自体によって自己確認や幸福を感じたり、他人に持っていることを見せつけて威信を感じさせたりする記号としてか、あるいはその両方か。単純にそれは決められない。しかしそれらを含めて、「商品生産以外の生活」をするためではある。1975年に「商品生産以外の生活の用具」のことを「生活財」と呼ぶことにした。*45
私たちの生活におけるモノの捉え方を提示している。さらに、「日本の一般家庭には何品目くらいあるのか、そしてそれはどのように配置されているのか、より広い住居に住む家庭ではどのように異なるのか。一見無秩序に見える家庭における生活財の保有・配置状況にこうした秩序を見いだそうとして、私たちは森林生態学の方法を真似ることにした。」*46とあり、ここから「生活財生態学」が誕生したと分かる。
2.2.2 生活財生態学IIIの調査対象者と本研究の対象者
『生活財生態学III』では、東京圏、大阪圏、山梨県、福井県から計200家庭を調査対象としている。本論文では都心部である東京圏と大阪圏に絞って読み解いていく。

※論文より切り抜き
「生活財生態学」の研究において、2016年で80歳の高齢者を想定すると、1975年では39歳、1982年では 46歳、1992年では56歳の生活に当てはめて考えることができる。
2.2.3 調査票生活財リスト
「生活財生態学」の調査は、家庭の生活財の保有状況や使用頻度、購入意欲状況、そして生活財の配置状況(家庭景観)を明らかにすることを目的としている。調査方法は、調査対象家庭の生活者が「調査票」に回答するという方法である。『生活財生態学』の3回の調査票の生活財リスト数を以下(表2.2-2)に示す。
生活財調査リスト品目数は、調査対象者が回答したモノの保有数を示している。調査結果保有品目数は、生活財調査リストから実際に家にあるモノを数えた結果である。生活財調査リストの品目数も調査結果保有品目数も1975年の調査当初から回を重ねるごとに増加しており、家庭のモノが増加していることも分かる。
※論文より切り抜き
2.2.4 生活財と家庭機能
「生活財生態学」は、家庭における諸機能が生活財によってサポートされていることを前提に、家庭機能を13に分類している。その中で子供の有無や年齢・性別との関連が強い「養育」と住宅そのものの機能である「収納」を除く11の家庭機能について、生活財の保有数を明らかにしている(表2.2-3)*48。
高齢になると、「外出」する機会や「家事」、「調理」時間の減少など、家庭機能が衰退することが予測される。家庭機能の減少は、その機能に関わるモノの保有品目数も減少させると考えられる。
高齢者が施設へ「住み替え」をする場合には、限られたスペースで生活していく為、それぞれの「家庭機能」を維持させるためのモノは持参し、その他のモノは、環境に合わせて変化すると思われる。このような「住み替え」の状況となると、生活に必要なモノは必然的に減少する。
※論文より切り抜き
2.2.5 家庭景観の生活財の状況(調査対象1992年時)
『生活財生態学III』の1992年の調査時の家庭景観写真データをもとに、家庭内の機能空間別に生活財の配置や様子について考察する(表2.2-4)。


※論文より切り抜き
2.2.6 生活財での増減
『生活財生態学III』では、1982年から1992年の10年間で20%以上増えたモノと10%以上減ったモノをまとめている*50。どの分野も増加傾向だが、中でも著しく増加している分野は、電気カーペットや電気ファンヒーターなどの「冷暖房器具」、キッチンまわりの「調理用小道具」や「刃物類」、女性用のファッション小物「靴・帽子」、「文具用品」、ビデオデッキやラジカセ、カラーテレビなどの「オーディオ用品」、「スポーツ品」などである。表2.2-4から家の中の景観変化に伴って、生活財も変化していることがわかる。




※論文より切り抜き
2.2.7 まとめ
『生活財生態学III』の1992年の生活のなかのモノを中心に、1982年、1975年についての変遷も合わせて読み解いてきた。戦後のモノが不足していた時代から様々な産業が発達し、モノがあることで生活が豊かになるという思いから、人々はたくさんのモノを所有することを望んだ。また、リビングダイニング中心の洋風な暮らしに変化したことで、キッチンは居間と反対の場所からダイニングと密接な位置に移動し、キッチンで使用する器具もカラフルなモノが増えたと考えられる。技術革新による家電製品の進化は暮らしを便利にする一方で、モノの増加をもたらした。他にも、大量生産されるようになった衣服は安価で購入することが当たり前となり、母親の家事の一つであった「裁縫」は徐々に薄れていった。さらに洗濯、掃除、料理など様々な家事を”効率よく”行うことが重視されるようになると、便利な家電や調理グッズを買い揃え、モノを持つこと=豊かであることと考えられた。あらゆる産業の発展は、便利で豊かな暮らしをもたらし、多種多様なモノをもたらした。
〈注釈〉
*40 商品科学研究所、(株)CDI (1993)「生活財生態学III大都市・地方都市・農村・漁村「豊かな生活」へのリストラ」、商品科学研究所
*41 商品科学研究所、(株)CDI(1980)「生活財生態学 現代家庭のモノとひと」、商品科学研究所
*42 商品科学研究所、(株)CDI(1983)「生活財生態学 モノからみたライフスタイル・世代差と時代変化」、商品科学研究所
*43 商品科学研究所1973年に設立された民間研究所。1998年に閉鎖。
*44 株式会社シー・ディー・アイ代表疋田正博,京都市中京区夷川通室町所在
*45 商品科学研究所、(株)CDI (1993)「生活財生態学III大都市・地方都市・農村・漁村「豊かな生活」へのリストラ」、 商品科学研究所,p3
*46 45に同じ、商品科学研究所,p3
*47 45に同じ、商品科学研究所,p7
*48 45に同じ、商品科学研究所,p116
*49 45に同じ、商品科学研究所,p132
*50 45に同じ、商品科学研究所,p217











