イタリア生活で見つける「びとくらし」
イタリアでの日常生活の中にある、すこしだけ幸せに感じたり、すこしだけリラックスできたりするような「びとくらし」的な出来事を、マルケ州アンコーナ住まいのライターが紹介します。
イタリアに暮らす彼女の話しを聞いていると、度々、イタリアでは日本と全く違う時間が流れているように感じることがあります。しかもとても豊かな時間でした。時間の流れの違いの中に豊かさの理由が隠されているように思えてなりません。ぜひ、この理由を一緒に探してみませんか?
イタリアで愛される日本
ここ最近のSUSHIブームには目を見張るものがあり、何がそんなにイタリア人を熱狂させているのか?と日本人の私にとっては少し不思議な気持ちになる今日この頃。
街にある中華料理店の多くがSUSHIや和食メニューの提供をしていたものの、コロナ禍になってからというもの、テイクアウトに向いている料理ということからか、とにかくSUSHIが売れに売れていて、魚屋さんがSUSHIを握り始めたり、またスーパーにある鮮魚コーナーの片隅のSUSHIコーナーが必然的な存在となりました。
皆さんの想像にも易いように、こちらで愛されている寿しは、カリフォルニアロールの様な変わりSUSHIですので、味の楽しみ方は私達の物とは少し異なるものの、ヘルシーであることや、Giappoanese(ジャポネーゼ):日本のモノに対する敬畏がひしひしと感じ取れます。
あまり迎合していないお国のモノならば、たとえ魅力的であってもなかなか受け入れることはしませんが、この現在の無類のSUSHIフィーバーからもイタリア人の日本贔屓が見て取れるかと思います。
私が住むエリアには日本人は少なく、東洋人と言えば中国人がほとんど。ですので、私の姿を見た際に多くの人は中国人であると自動的にインプットされます。
実際に仕事場で合う取引先の多くは、私のことを長く中国人だと認識しており、何かの拍子で私が日本人であると言う事実を知ると、「えええ~、日本人なの~!ファンタスティックだね~」などと言いながら皆決まったように相好を崩します。
日本人であると言うアイデンティティのみで手放しで称賛してもらえることは、ちょっとくすぐったいものの、日本人で良かったと心から思う瞬間です。
日いづる、そしてアニメの国
それにしてもなぜこれほど日本に対して愛着を持ってくれているのでしょうか?色々な国を旅しましたが、イタリアでの日本ウケは格別高いように感じられます。
第二次世界大戦で三国同盟を組んでいたからかしら?などと、根拠なく想像していましたが、これについては全く違うようで、イタリアはあくまでもファシズムの延長上でドイツと手を組んだいたわけで、日本の立場とはかなり異なります。
日本とイタリアが「よく似ている」ということも挙げられるかもしれません。ともに地勢的に南北に細長い国で、海に囲まれ、山間部が多く、お料理が素晴らしい。
ただ、これに関しては、日本より韓国の方が似ているという意見を聞いたこともあります。二国とも南北に長い半島に位置しており、料理が多彩で、家族の絆が非常に強くお母さん信仰が高い。 確かにこの二国もよく似ていますね。
自国の伝統文化や食文化が発達しているイタリアですので、同じように伝統を重んじ、また日のいづる国として過去から敬われていた不思議な国、日本に対しては神秘的なイメージを持ち続けてくれているようにも思います。そして、イタリア語の表現で、日本はまさに「日のいずる国/ Il paese del Sol levante 」と今も呼ばれているんですよ。私も友達から、「どうしてわざわざ”日のいずる国”からイタリアくんだりに来たわけ?」とよく聞かれます。
太陽が出てくる国、この表現だけを見ても、日本と言う国を敬ってくれているのが理解できますよね。
さて、実質的に現代イタリア人の日本好きに最も影響を与えたのは「アニメ」輸出と言えるでしょう。
1970年代前後から、日本のアニメが多くイタリアに輸出され、テレビ放映されており、私と同年代の人たちはまさに「日本アニメ」で育った世代。
マジンガーゼットやアタックナンバーワン、キャンディキャンディや怪物くん、うる星やつらなど、本当にありとあらゆるアニメが放映されています。
タイトルはイタリア語バージョン、名前もイタリア名、もちろん喋る言葉はイタリア語ですが。例えば、「キャプテン翼」の主人公は日本では大空翼ですが、イタリアでは呼び名がHolly (オーリー)、本名Oliver Hutton となり、アニメのタイトルも「Holly and Benji (オーリー エ ベンジー)」と日本版とは似ても似つかないものになります。ちなみにBenjiとは登場キャラクター Benjamin Price (ベンジャミン プライス)からきており、ゴールキーパーの若林源三にあたるらしいです。サッカーがナショナルスポーツのイタリア、タイトルで主人公一人をフューチャーするのではなく、仲間意識をアピールしたかったのかも知れませんね。
現状でもピカチュウ、ワンピース、鬼滅の刃などはイタリアの子供たちに大人気です。こうやってみな意識せずに幼少期のころから日本や日本文化に触れたことが、今の手放し状態の日本びいきにつながっているのかも知れません。
ただ、多くのアニメが「イタリア化」して放映されているため、日本製のモノとは認識されずに知れ渡ってもいますが。
最後に、私の夫の論を今回のエッセイの締めにご紹介させていただきましょう。
私の夫は他のイタリア人の御多分に漏れず大の映画好き。
先日、トム・クルーズさんと渡辺謙さんが主演する「ラストサムライ」を見ていた時、彼がふと私に言いました。
「この映画は本当に素晴らしい。僕はこの映画は恐らく30回は見た。
それまで文字の上だけで知っていた日本という国だけど、この映画を通して、視覚的に、そして感覚的に本質に触れることが出来た。この映画の出現がイタリア人の日本に対する興味や尊敬の念を高めたことは間違いない」と。
ありがとう「ラストサムライ」。
イタリアに住む日本人の一人として心からそう伝えたいです。