イタリア時間でびとくらし

イタリア時間「大変な時だから」

イタリア生活で見つける「びとくらし」

先月のエッセイから約一ヶ月。
世界の状況は更に混沌としたものになってしまいました。
日本は感染者数が少なく「奇跡の国」として捉えてられいますが、政府の緊急事態宣言もあり生活に不自由と不安がつきまとう毎日になっています。
イタリア、レッドゾーン下の暮らしから見えたもの、感じたことをマルケ州から伝えてもらいました。

大変な時だから

コロナウィルスの世界的蔓延によって、今や全世界人口の半数以上がロックダウン化の元で暮らしていると言われています。
私が住むマルケ州は、北部エリア ペーザロ・ウルビーノ県での感染者が急激に増加したことにより現状のイタリア全土レッドゾーン化となる一足先に、学校の閉鎖や飲食店での営業制限などが始まりました。日本も現在、7府県を対象に緊急事態宣言が出さている状況です。収入が不安定になる方、生活に不便が生じる方、何かと不安が多くつきまとうと思います。今回は、このレッドゾーン下でのイタリアでの生活ぶりにについて、少し紹介させてもらいたいと思います。
なお、同内容は4月7日に記述したものになりますので、ご了承ください。
尚、当記事更新時(2020年4月13日)で、イタリアの全土ロックダウンは5月3日まで延長されています。

厳しいルールを守る為に

日本では外出自粛も「要請」という形ですが、こちらは「命令」として特別法令が発行されています。
その発布はまずは首相が記者発表を行うのですが、Youtubeやテレビのニュース番組を通してオンタイムで首相の発表と説明を皆が平等に見聞きすることが出来ます。
また、本来なら報道陣が取り巻いている状況ですが、衛生面を配慮し無人での発表方式になっています。
この法令が発布され、各州からコムーネへと指示が下り、いざ施行へという流れになります。
現状は大きく「買物と通院以外の買物禁止」、「生活必需サービス以外の企業や工場、飲食店は全て閉鎖」が大きなルールで、海辺を散歩することや、隣町までショッピングに出かけることなど法令違反となり見つかると400~3,000ユーロの罰金対象になります。この金額も元々は約200ユーロだったのですが、法令に違反する人が後を立たず、途中で大幅に増額されました。

買物をする際は、お店に入れるのは家族の内の一人のみ。入店者数制限があるため誰でも自由に入れるわけではなく、お店の前で自分が入店できる番になるまで列を作って待つ必要もあります。そのため、入店者を整理するスタッフも特別に店先に配置されていたりもします。店内ではビニール手袋の装着が促され、他人との距離も最低1m以上を開けなくてはいけません。レジ台の前には、早々にプラスチックボードが立てられ、キャッシャーとお客さんの飛沫接触を減らす仕様が施されています。これだけ書くとなんだか物々しく感じられますが、お店の中はいつもと変わらず生鮮食料品から嗜好品まであらゆるものがほぼ欠品なく揃っていて、これを見ると「大丈夫だ」と勇気が湧いてくるから不思議なものです。日本を含め、多くの国で買い占め行動が勃発し、ニュースでは空になった商品棚の様子が流れたりしていますが、不安な気持ちに不安を塗り重ねる行為ですよね。

レッドゾーンになって直後のスーパーマーケット入り口の様子。殆どの人がマスクをしていないのが見える

習慣を変えることは簡単ではないけど

イタリアや諸外国で感染がこれほど急速に広まった原因の一つとして、習慣の差があげられます。
手洗いをマメにしない。特にお手洗いに行った後に手を洗うことを多くの人はしないのではないでしょうか?
そしてマスクの装着率の低さ。ここでも、レッドゾーンになった段階でも殆どの人がマスク無しで出歩いていましたし、そもそもの在庫数が非常に少なく、すぐに品切れになったこともあるのでしょう。とにかく装着率が上がるまでにはかなり時間がかかりました。ただ、私の主人が言うには、イタリア人の美的感覚として顔の半分を隠している姿を他人に見せるなんてことは恥ずかしくて出来ない、とのこと。感染するリスクよりも、自分たちの美意識を優先する選択が本当ならばさすがモーダの国。イタリアの個性として尊重したい気もやまやまです。
過去のコラム「あいさつの技術」でも紹介しましたが、簡単なあいさつであっても、頬へのキス、抱擁、そしておしゃべりがセットになるイタリアです。マスクを装着する習慣も無い中ならば、この彼ら龍のあいさつを介しての感染リスクの高さは否めません。

いま外出禁止となって、一番ショックを受けているのは、恐らく毎週末家族の為に大量に食事を用意していたNonna(おばあちゃん)や、Mamma マンマ達でしょう。核家族化が進んではいるものの、週末は家族全員が一所に集まって食事を取るという人たちはまだまだ少なくありません。私達も毎週日曜日は主人の実家でランチをご相伴にあずかっています。また、隣りの家も反対隣りの家も、多くの来客を迎えての大昼食会が開かれていることが物音や声に乗せて伝わってきます。
とは言っても、イタリアでは特に高齢者の方の多くが犠牲になっていることから、この家族での濃厚な食事の時間が彼らを危険にさらしている可能性があると考えられ、今はたとえ家族であっても週末の食事はおろか、平日に顔を見に訪問するということも出来ない状況です。

自分たちが既に持っていた常識や行っていた習慣を今は一旦ストップしなくてはいけないわけですが、最初はなかなか浸透しなかったり、懐疑的にとらえている人も多くいました。でも、今では街に出るとほぼ全員がマスクをし、友達とも距離を持って挨拶をしています。そして、スーパーでの列も混乱や罵声もありません。とにかく、みんなこの生活に静かに慣れようと努力をしていることを肌で感じることができます。

どんなときでもユーモアと優しさを

この緊急事態が始まった当初から、とにかく仲間内でスマートフォンのWhatsappと呼ばれる機能(日本でのLineの様なもの)を使って、笑える動画や静止画像が交換されるようになりました。置かれている大変な状況を、コメディ仕立てにしていたり、とにかく笑える物ばかり。
皮肉的なものや、政治的なものではなく、単純に「あはははは」と笑い飛ばせる内容で、世間が自分たちの未来を案じて暗く沈みがちになるかと予想していたのですが、皆、一様にこのジョークを見ることで、非常にシンプルに気分転換を図っているように見て取れました。私にも立て続けに多くのジョークが送ってこられて「イタリア人は、こういう非常時であっても、楽しむことは天才的だからね」と言った友人の言葉が印象的でした。確かにです。

また、日本でもニュースで多く取り上げられていましたので、ご存じの方も多いかと思いますが、ご近所さん同士での元気づけ作戦も色々とありました。
バルコニーに出て皆で国家を歌ったり楽器を演奏したり、街全体でフラッシュモブをする企画もありました。自分たちで自分たちを力づける。一人じゃなくて皆で一緒。そう思えるだけで前向きな気持になれますよね。
子どもたちが虹の絵を描き、それを軒先にかざして街行く人々を応援するパフォーマンスも一気に国全体に広がり、皆で楽しむことができましたし今は他の国にも広がっている様です。

真面目なところで言うと、外出規制が発せられ、高齢者だけの世帯や身体が不自由な方の世帯では日常の買物などにも支障きたします。彼らに対してもすぐにボランティア隊が早々に組織され、ケアにあたっています。スーパー店内には「恵まれない人に必要品を届けよう」と品物を寄付するコーナーが出来上がり、多くの商品が寄付されています。個人経済に関しては日本とは大きく差がある状況で、自分たちの生活だけでも大変であるにも関わらず、大騒ぎせず、自然と当たり前にこの様な行動が始まることにも大きく感銘を受けました。

自分ができることをまっとうする

イタリアにいることで、ロックダウンという状況を日本よりも少し早い段階から経験している私から皆さんにお伝えしたいことを最後に簡単に書かせていただきます。

未知のウィルスで特効薬はありません。
死なないことが大切なのではなく、感染しないことが大切です。
飛沫感染によるものと特定されているので、とにかく住まいを共にしていない人との接触を出来るだけ避けることが重要です。
とにかく外に出ることを極力避けるようにしてください。

また、数多くの情報が出回ります。デマやフェイクニュースも飛び交い、混乱している人たちの存在をよく目にします。
出典元が不確かな情報については、正しそうに書かれていたとしてもまずは「これ、本当?」と疑ってみること。たとえ自分が本当だと思った情報であっても、むやみに他の方に送りつけることは止めておきましょう。恐らく別のお節介な方が他の方へは同じ様な情報を送信しているはずです。
正しくない情報が出回ると、正しい情報までもが上手に処理されなくなります。
ですので、お節介して情報を提供するのは止めておく事が、他の方へに対しての本当の優しさだと思います。

そして、やみくもに不安になったりしないこと。
家族にも会えず、お友達と食事にも行けず、仕事も休みがちになり、とどんどん不安が募っていくかと思います。でもみんな状況は同じです。しかも日本だけではなく世界中で同じなのです。
もし時間が出来たのならば、今まで出来なかったことにチャレンジしてみてください。
私の主人の親戚たちは、エクセサイズや、お料理、子どもたちへの勉強用など様々な動画を撮って俄ユーチューバーになっています。義理の母は「今日はキッチンの棚を整理したわよ! あの開かずの間の整理をするのはいつにしようかしら」なんてことを電話口で言っています。

最後に、氾濫する情報を使い分けるには、自分自身で情報を選ぶことが大切です。
人が言うことを簡単に信じるのではなく、その言葉をしっかりと受け止め、自分で考えてみるようにしてください。
物事を見る視点と立場を、自分のものに置き換えて受け止め直すことが大切です。

自分の気持ちと身体をいたわれるのは自分だけです。
こんな非常時です。しっかりと優しくご自身をケアをしてあげてくださいね。

Andra’ Tutto Bene. ”きっと、全てうまくいくよ”

 

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Atsuko Niwa 丹羽淳子

イタリア マルケ州在住。現在はワインや蜂蜜を日本に輸出する業務に携わり、翻訳やアテンド業を行う。 出版広告業界を経て、不動産業界の広報・採用業務に携わり、40歳目前に違う世界を見てみたくなりワイン業界へ転身。イタリアワインのエチケットを理解したいと思いイタリア語を習い始めたことをきっかけから最終的に41歳の冬にイタリアに渡り、現在で6年目に至る。 AIS認定ソムリエ、WSET Level2(ワインを理解するうえで不可欠な知識を得ることを目指すイギリスの資格)。

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