写真で日常を切り取る、びとくらし
「びとくらし」サイトトップのメイン写真をご提供いただいている、嵐祥子さん。
写真家ならではの視点や、景色の切り取り方、毎日の暮らしぶりを写真と文章で伝えいただきます。
「すこしずつ、ゆっくりと」
春のおわり。
晴れた日の空気に、夏の香りが混じる季節になりました。
4月から続く、新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言。
それに伴う約1ヶ月間の外出自粛生活では、過ごしやすい季節ということもあり、ベランダに出ている時間が増えています。
我が家のベランダからは、標高約300mの「須磨アルプス」が目の前に見えています。
山は新緑の季節をむかえていて、その色は時間とともに変化しています。
朝、部屋の空気を入れ替えるとき。買物へ出る前に、お天気を確認するとき。夕方、洗濯物をとり込むとき。
そのつど「みどり色の景色、きれいだなぁ」と、眺めるのが日課になっています。
ぴかぴかの黄みどり色だった新緑が、日を追うごとに、深いみどり色へと濃くなっていく様子を見ていると、なんだか気持ちも落ち着いていくようでした。
「須磨アルプス」の南側は「瀬戸内海」に面していて、山の下すぐには海岸が広がっています。
地域によって緊急事態宣言が解除され、神戸市でも臨時休業から再開するお店が出始めたころ。
ひさしぶりに町内を越えて散歩に行こうと、家族で「須磨海岸」へ出向きました。
「須磨海岸」は古くからある海岸で、夏はおおくのひとが訪れる海水浴場、地元のひとから親しまれている水族館や釣り場、松林の木陰を散歩できる海浜公園などがあり、いろいろな年代が集まれる憩いの場所になっています。
すこし肌寒い日でしたが、浅瀬で貝殻ひろいやヤドカリ探しなど、海らしい遊びをいくつかして、息子も楽しめたようでした。
浜辺でしばらく過ごしていると、潮風で肌がベタベタしたり、サラサラした砂の上を歩くのに足に力が入ったり、まだ冷たい海水をすくってそのしょっぱさを味わったり。
ひさしぶりの自然の感触にハッとして「日常が近づいてきたかもしれない」と、希望的に思いました。
でも実際はまだまだ不安定な状況で、元どおりの日常には、もう戻らないかもしれません。
これからコロナ後の世界へ入っていくことへの、心もとなさもあります。
そんな不安を抱える心の中でも、広い海を前にし、波が音を立てて寄せてはかえしているのをただ見ているだけで、とても気持ちの良い時間だなと感じました。
世の中が落ち着いてきたら、おだやかな時間やこれからの楽しみを、すこしずつ、ゆっくりと、日々の生活の中にとり戻していきたいなと思います。