「掃除のちから」

bitokurashiの主宰者小林朗子さんは整理収納コンサルタント。
単に住まいの整理を助けるという役割で終わるのではなく、整理するターゲットを住まい、ひと、街とへと広げ全体を俯瞰し、ひとの暮らしについて深く研究されています。
このコーナーでは小林さんが考える整理収納とは、彼女が提案したいbitokurashi (美徳と暮らし、人と暮らし)とは何かをライターによる書き起こし形式でご紹介します。
みなさんが、このbitokurashiの思いを感じてくださりますように。

※当サイトの主宰に対してインタビューを行い記事にしています。よって、敬称を使用しています。

静かにはじめてみる

このコラムでも何度かご紹介していますが、私が携わっている事業の一つに「喫茶部」という取り組みがあります。もともとは、近所の人たちが気軽に集まってコミュニケーションする場所を作りたいという思いから、コーヒーを介した拠りどころとして岡本でとある企業さんのオフィスの一画をお借りして取り組みをはじめました。

利用して下さる方々の声や、喫茶部の取り組みを見聞きした知り合いなどからのアドバイスなどもあり、去年には阪神西宮駅近くに「喫茶部ガレージ」というレンタルオフィススペースを開設しました。こちらはもちろん「仮」の姿ではなく、ビルの一層をシェアオフィス仕様にリフォームし、テーブルスペースや会議室などを利用者の方に提供しています。
間借りをして取り組んでいた時とは規模も全く違うのですが、ことのほか一定した場所に常に存在するということが新鮮で、関わってくださる方やご近所の方とのつながりがとても新鮮です。地元の活性化などにも力を入れていこうとイベントなども定期的に企画しています。

利用する人を区切らないコンセプトの空間なので、関わってくださる方の幅も広く、大学生の方々との共同企画などもよく行っています。そんな中、地域を大切にする気持ちに共感してくれた大学生スタッフと、商店街の掃除を週に一回朝少し早めに来て、有志の人たちで始めてみることにしました。
お掃除に必要なものは、自分たちの少しの時間と、簡単な掃除用具のみ。
ことを大仰にするのは性分に合わないので、もちろん揃いのウェアなどを着たりせず、着の身着のままで告知も行わず静かに始めてみました。

Lucky SonによるPixabayからの画像

お掃除がうみだす効果

気の向いた人たちだけで静かに始めたので、一番最初に困ったのが落ちているゴミを拾い上げる「トング」がないこと。無償で貸してくださる方をSNSを通して探したりと、我ながら手作り感満載なのですが、新たにモノを買い揃えて始めるよりも、周りの方たちの優しさに支えてもらってゆるやかに気負いすることなく活動をはじめたこともなんだか”ほっ。”と嬉しかったり。
「自分たちが拠点として活動する街だから、少しでもきれいにして自分たちも周りの人たちも気持ちよく過ごせたらいいな」、というていどの気持ちで始めたお掃除なのですが、その間に多くの人に声をかけていただくことに驚きました。
「おはようございます」の挨拶から「ありがとう」「ご苦労さま」というお言葉をいただいたり、そのほかにも素性を聞かれたり、喫茶部ガレージについて質問されたり。
拠点として存在しているだけでは、知らなかったことや、知ってもらえなかったことなどをいろいろと経験することが出来たのです。
「掃除をする」という作業は、見ている人の心と興味を動かし、人と人のコミュニケーションを自然に生み出す作用があるように感じられました。お片付けや整理整頓もそうですが、きれいにすることで嫌な思いをされるかたはまずいらっしゃりません。作業者はもちろん傍で様子を見ている方も、どんどんきれいになっていく様は、気持ちよさがあふれてきますよね。確かに、軒先でお掃除をしている方の姿を見ると、ほっこりと気持ちが優しくなります。
この効用「掃除マジック」は、人と人のコミュニケーションを生み出したり、円滑にさせる効用があるのではないでしょうか。。。
やっぱり掃除って奥が深くて面白い、と実感した次第です。
みなさんも小林さんに質問したいことがありましたら、ぜひメールやインスタグラムでのDM、メッセンジャーなどでお送りください。

聞き手と書き手:Atsuko Niwa

当サイトの画像やイラスト、文書等の無断転載・無断使用はお断りいたします。ご使用をご希望される場合はお問い合わせください。

Akiko Kobayashi 小林 朗子

不動産関係の企業数社にて広告・広報業務を担当、在職中に整理収納アドバイザー1級資格を取得。 その後、武庫川女子大学大学院修士課程にて生活環境学を研究し、現在は整理収納コンサルタントとして、一般家庭や事務所の整理収納業を担う。その傍ら、使い手の無くなった着物や帯を新しい形へとアップサイクルする”Ofukuwake”や、各種セミナーや書籍監修などで活動。coordinationの代表、株式会社喫茶部代表。

https://www.coordination.work

記事一覧を見る

カテゴリー内の最近更新された記事

  • vol.9 高齢期の「整理収納」に関する意識調査

    人生の最期に向けた準備や意識

    身の回りのモノの整理や遺産相続についてなど、生前に自分がしておきたいことを考える時間はとれていますか。アンケート調査から「終活」の準備への意識を読み解きます。

  • vol.8 遺品整理業者に聞く「生前整理」の準備

    遺品整理の実情とは

    高齢者が行う「生前整理」と遺族が行う「遺品整理」。終活は、高齢者本人だけでなく、家族みんなで取り組むテーマです。

  • vol.7 高齢者住み替えアドバイザーが語る高齢期の整理

    高齢者の「住み替え」のタイミング

    高齢者の「住み替え」はどのようなタイミングが良いのでしょうか。また「住み替え」に伴うモノの移動や処分はどのように行われるのでしょうか。高齢者住み替えアドバイザーから学びます。

  • vol.6 「モノ」への意識に関する調査

    家の中のモノの量とモノを捨てること

    家の中のモノの量やモノを捨てるということに関して、アンケートをもとに性別や年齢別に比較しています。家の中でどのようなモノが多く存在し、どのようなモノが捨てられないのでしょうか。

  • vol.5 暮らしのなかのモノの変化

    「生活財生態学」とは?モノを生態学的にとらえる

    戦争や産業の発展などの社会情勢の変化は、家庭内のモノにも大きな影響をもたらしていました。日本の家庭に保有される生活財を調査した「生活財生態学」の研究から、モノの変遷を読み解きます。

  • vol.4 「整理」に関する書籍の変遷

    書籍から読み解く「整理収納」への関心

    今では広く使われるようになった「断捨離」や「終活」といった言葉は、いつ誕生したのでしょうか。「整理」に関する出版書籍から、時代とともに変化する言葉やターゲット層について読み解きます。

  • vol.3 高齢社会の実態-家族構成と一人暮らし-

    高齢社会の実態をデータから読み解く

    日本の高齢社会の実態を理解したうえで、高齢者の「整理収納」における課題を考えます。

  • vol.2 既往研究から探る -高齢者と住み替え-

    「高齢者」「住み替え」「モノの整理」に関する先行研究のまとめ

    高齢者の住み替えやモノの整理に関して、これまでの研究ではどのようなことに着目し、どのような結論を見出しているのでしょうか。過去の研究内容を分かりやすくまとめました。

  • vol.1 高齢社会における「整理収納」

    高齢期に向けた整理収納の課題とQOL向上のヒント

    暮らしにあふれるモノは、人生の節目ごとに見直しが必要です。高齢期には生前整理や遺品整理と向き合う場面も増えますが、自分らしく整えることが、安心と心地よい暮らしにつながります。

  • bitokurashiリニューアルのお知らせ

    みなさま、はじめまして。あるいはお久しぶりです。「bitokurashi.com」をご覧いただき、ありがとうございます。 2017年7月にスタートした「びとくらし」は、2025年9月に内容やコンセプトをリニューアルをさせ […]

  • 今月の旬を味わう「みかん」

    季節がかわるごとに、いろいろな食材を目にします。 「旬」の食材をいただくことは、その美味しさはもちろん、自然に共調し心身ともに健やかにしてくれます。 しかしながら、毎日を慌ただしく過ごしていると、いつの間にか時間が目の前 […]

  • イタリア時間「年の終わりは忙しなく」

    イタリア生活で見つける「びとくらし」 イタリアでの日常生活の中にある、すこしだけ幸せに感じたり、すこしだけリラックスできたりするような「びとくらし」的な出来事を、マルケ州アンコーナ住まいのライターが紹介します。 イタリア […]