vol.10 高齢期に住みたい場所

「遺品整理」の経験から読み取る「生前整理」の必要性

第4章 高齢期における「整理収納」に関するアンケート調査

4.2.6 高齢期の住み替え先について

(1)高齢期の住み替え先について
 現在、「分譲マンション」に居住中が2609人(94.8%)、その後高齢になって住みたい場所として、1657人(60.2%)が「分譲マンション」をあげており、マンションで住むことを希望する人が多いことが分かる(図4.2-22)。しかし、分譲マンションから「高齢者施設・高齢者向け住宅」に住み替えを考える人も一定数存在している(図4.2-23)。本アンケートの回答者は「集合住宅」に居住しているという前提がある為、現在の住居に関して、選択肢に「戸建」を設けていない。以下の左図(図4.2-22)が現在の住居で、右図(図4.2-23)が高齢期希望住居グラフである。マンションから戸建への移行を希望している人もおり、また「その他」を選択した人は「まだわからない」という回答だった。

※論文より切り抜き

 年齢別の変化をみると、30~60代では約6割の人が「マンション(分譲)」で住むことを希望している(図4.2-24)。70代80代の高齢層は、「高齢者施設・高齢者向け住宅」を希望する人が多いが、80代後半とさらに高齢になると、「高齢者施設・高齢者向け住宅」への入居希望者は少ないと読み取れる。

※論文より切り抜き

 性別で比較すると、男性は「マンション(分譲)」と「戸建(持家)」、「マンション(賃貸)」で女性よりも割合が高い(図4.2-25)。男女で最も大きな差があった選択肢は「高齢者施設・高齢者向け住宅」であり、男性は女性よりも「高齢者施設・高齢者向け住宅」への住み替えに懸念がある、もしくは自宅で過ごしたいという思いが強いと推測できる。

※論文より切り抜き

(2) 希望する家を選択した理由
 高齢期に希望する住居の選択理由を記述してもらった結果を以下に示している(表4.2-1)。「高齢者施設・高齢者向け住宅」は別途詳細を質問している為、除外し、「その他」は多くが「わからない」という回答であった為、除外する。記述内容の傾向として、「自由」、「プライバシー」、「安心」といったワードの使用頻度が高いように感じる。

※論文より切り抜き

4.2.7 住み替え先「高齢者施設・高齢者向け住宅」選択者の特性

(1) なぜ「高齢者施設・高齢者向け住宅」を選択したのか
 図4.2-23 で「高齢者施設・高齢者向け住宅」を選択した理由では、「子供・身内に負担や心配をかけたくないから」が65.2%で最も多く、家族への配慮や自身の安心感などを優先した結果の選択と考える。また少数ではあるが、「友人をつくりたいから」という回答も11.4%あり、施設は人とのつながりの場であることが分かる(図 4.2-26)。
 その他は、「身内や子供がいない」ため、という理由の方がほとんどであった。「高齢者施設・高齢者むけ住宅」以外を選択した人の意見では、「自由でありたい」とあり、自分の時間を大切にしていると感じられる。

※論文より切り抜き

(2) 「高齢者施設・高齢者向け住宅」に移る際のモノについて
 「「高齢者施設・高齢者向け住宅」に移る際にモノはどうするか?」という設問に対して、「一部処分し、一部残す」割合が49.8%で最も多いが、一方で、32%の人が「すべて処分したい」と回答している(図4.2-27、図4.2-28)。持っていきたいモノとしては、「パソコン」が59.4%で、続いて「服」、「アルバム・写真」、「思い出の品」があげられた。

※論文より切り抜き

 持参したいモノの回答を年齢別に比較すると、年齢問わず「パソコン」の割合が高く、高価であることや、様々なデータが保存されていること、娯楽ツールなどの理由が考えられる。第5章の高齢者へのインタビューにおいても言及しているが、女性で裁縫や編み物が得意な人の場合、様々な手工芸品を施設にも持参している様子を目にしたが、高齢になるにつれて細かい作業が難しくなり、やめてしまう人も多いようだ。そのため、細かい動作を必要としないコーラスや音楽、俳句などを楽しむ様子がインタビューから窺えた。

※論文より切り抜き

4.2.8 親・身内の遺品整理経験について

 遺品整理は約30%の人が経験があり、7割の人は経験が無いことが分かった(図4.2-30)。年齢別にみると、自身の親が80~90代にあたる60代の人は、遺品整理の経験者が多いことが読み取れる(図4.2-31)。

※論文より切り抜き

4.2.9 親の遺品整理について

 両親のうち、どちらかもしくはご両親ともに亡くなった人は53.7%、ご健在の人は46.3%である(図4.2-32、図4.2-33)。
 亡くなった親が「生前整理」をしていたという回答は15.2%で、残る84.8%は「生前整理」していなかったという結果である(図 4.2-34)。「生前整理」をしていた回答のうち、「「生前整理」をしてくれていて良かった」と感じている割合は44%、「どちらかといえば良かった」が52%であり、「生前整理」をすることは本人にとっても遺族にとっても良いことだと感じる。一方で、「整理しないで欲しかった」、「どちらかといえば、整理しないで欲しかった」という人もいて、一概に「生前整理」をすべきとは言い難い(図 4.2-35)。

※論文より切り抜き

 「生前整理をしてくれていて良かった」(図4.2-35)という理由は、「処分に困らなかったから」、「気持ちが楽だったから」という回答が多くみられた。「整理しないで欲しくなかった」の理由としては「遺してほしいものがあった」、「自分で片付けしながら気持ちの整理をしたかった」とあった(図4.2-36)。本人がどのようにしたいか、遺族がどのようにしてほしいか、を家族で話し合うことが大切だと感じる。

※論文より切り抜き

(1) 親が「生前整理」をしていなかった場合
 「生前整理」をしていなかった(図4.2-34)場合について、「整理して欲しかった」は18.8%、「どちらかといえば整理して欲しかった」は64.2%で約80%が「整理して欲しかった」と感じていることが分かる(図4.2-37、図4.2-38)。

※論文より切り抜き

 「その他」については、「相続トラブルの防止」、「荷物が多すぎて大変」、「故人の事を思うと処分できないから」、「価値がわからない」などの意見があげられた。

※論文より切り抜き

 「生前整理」をしていなかった場合、その後の整理手段は、「全て自分たちで行った」人が75.3%と最も多く、すべて業者に依頼した人は5.0%、一部業者に依頼した人は19.7%であった(図4.2-39、図4.2-340)。業者に依頼したという回答のうち、依頼した作業内容で「破棄」するという回答が最も多かった。その他の意見では、「家の取り壊し」や「不動案売却」、「古美術品の鑑定」、「神棚」を依頼したことが分かる。
 「生前整理」をしていなかった場合に、最終的に整理にかかった時間について調査した(図4.2-41、図4.2-42)。「覚えていない」という回答はあるが、1か月未満で終了した割合は約20%と比較的多く、1~2年という長期間かかった人もいると分かる。「その他」の回答では「4~5年」、「10年以上」が数件あり、多くは「途中」、「手つかず」という意見だった。整理をすることに気が進まない場合や、モノが多くて終わらない場合などが考えられる。

※論文より切り抜き

(2) 遺品整理を経験の感想
 「実家の片づけを振り返ってみて、気づいた点やこうしておくべきだった、といったご意見があれば自由にお書きください。」という設問の回答は593件あり、そのうち423件は今後の対応や、親にして欲しかったことなどであった。

〇要望、反省したこと
・子どものためにできるだけ物は少なくしておいてほしかったが、高齢になれば難しいのだろう。
・実家に帰るたびに了解を得て少しずつ処分・整理すべきだった。
・高齢になってからは使用しないものは捨てておく。
・残されているものには思い出がありすぎて整理できないものが多い為、本人が健在の時に「いる」「いらない」は聞いておくべきだった。もしくは一緒に整理をすればよかった。
・父の時は母にほとんど任せっきりで、実家もそのまま母が住むので問題なかったが、母の時は自分達がしなければならないうえに、家そのものをどうするかという問題もある為、より心構えが必要かなと思った。そういう意味では、父の時に少し楽をしすぎたかもしれない。
・何もかも捨てたことを後悔した。
・同居をしていなかったので、家の事情が分からないまま、勝手に片付けてしまったという後ろめたさを感じる。
・親はモノのない時代を過ごしてきたので、捨てることにとても抵抗がある。
・使えて便利なものなどを親から生前にもらい、自分たちで使っていく方がよかったかと思う。
・気持ちの切り替え、踏ん切りが大事だと思った。
・自身でやると、どうしても未練が出るので、業者に一括処理を依頼したほうが気持ちの整理がつきやすい。
・遺言書があると良かった。
・健在なうちに、どう処理したらいいのか話し合っておけば良かった。

〇今後について
・自分のものを減らすべきだと痛感した。
・断捨離。気が付いた時に捨てる。
・やはり自分のものは自分で処分しておくべきだと思った。
・元気で片付けのできる気力があるうちに断捨離はしておくべき。(定年退職を期に。)
・とにかくモノを多く持たないこと。何がどこにあるかわかるようにしておくこと。
・日頃からの整理
・終活などという言葉はあまり使いたくない。自分でできることをやればよいと思う。片付けも残された者には思い出に浸る最後の時間、大切な時間になると思う。
・後に残った家族のことを考えてあらかじめ片づけておくべきだと思った。

〇良かったこと
・親の家の片付けは、人まかせにせず自分でやってよかった。大変だったが整理して片付けることで、家族の歴史を再確認した。その上で捨てるべきは捨て、後始末をきちんとできたことに満足している。ただ、疲れていて、捨てるべきではないものも捨ててしまったことは後悔している。
・良く整理していた親なので、手間はかからなかった。
・存命のうちに、ガタガタと片付けするわけにはいかないので、片づけは大変だったが、やむをえなかったと思う。人に頼らず、親を懐かしみながらの整理も大事な時間だったように思う。

4.3 まとめ

 アンケートの結果から、年齢問わず、高齢になった時の整理は自分でしたいという人が多いことが分かった。特に整理したいモノは、「趣味のモノ」、「服」、「アルバム写真」、「思い出の品」であった。自分にとって価値があるモノや、自分だからこそ分かる内容のモノについては「整理したい」という意識が高いと考える。生前整理を行っている人の割合が少ないことから、自分で整理をしたいと思っていても、整理を始めるタイミングを判断できずに高齢になり、結局準備ができていないという人が多いと読み取れた。また、高齢期の住み替え先としては、約6割の人は現在の住まい、または分譲マンションに住みたいと考えており、「高齢者施設・高齢者向け住宅」を希望する人が2割程度いる状況である。分譲マンションを希望する人に多くみられた意見が「自由でいたい」、「自立していたい」という思いであった。できる限りのことは最後まで自分でやりたいという気持ちの表れだと考える。
 「高齢者施設・高齢者向け住宅」は本人も家族も安心、安全という点が一番のメリットであると感じる。「高齢者施設・高齢者向け住宅」へ住み替えを希望している人のなかで、モノを「すべてそのままの状態で残しておく」と回答した人は約2%であった。一方で、「すべて処分したい」は32%、「一部処分し一部残す」は約50%であり、できる限りモノを減らした状態での住み替えを希望していることが分かる。そして、「遺品整理」の経験について、「生前整理」をしてくれていた親については、多くの遺族が「生前整理」に感謝していると分かる。「生前整理」をしていなかったという親については、約8割が整理して欲しかったと回答している。整理に時間がかかることや、処分に困るモノがあった場合を考えると、少しずつ整理をすることが望ましいと考えられる。
 生前整理は多くの人にとって、整理を始めるタイミングが難しいことが窺えるが、自分の体調やモノの使用頻度などを考えて対応することが重要である。アンケートを実施したことで、自分が高齢になったときに、どのように整理をしたいか、遺族にどのようにしてほしいか、という意向や、実際の遺品整理の感想を調査することができた。

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