vol.11 住み替え経験者の声

住み替えのきっかけとモノの整理

第5章 高齢期の住み替え時における「整理収納」調査

5.1 本章の視点

 第3章では、高齢者に関わる職業の2者からお話を伺い、第4章では、高齢期における「整理収納」の意識調査を行った。本章では、実際に「住み替え」を経験した人を対象に、住み替えを決断した経緯や住み替え方法、また家の整理方法など具体的な事例を調査した。

5.2 調査概要

5.2.1 調査方法

・調査方法
 日本ロングライフ(株)が運営するロングライフ神戸青谷(神戸市中央区)、ロングライフ甲子園口(西宮市)の2つの施設において、回答者A~Gの計7組(単身者の場合も「1組」としている)、8人の入居者に会話形式による聞き取り調査を行った。

・調査期間
 聞き取り調査はロングライフ神戸青谷では、2015年9月~2016年1月の間に1組につき2時間程度を2回、ロングライフ甲子園口では、2016年3月に1組につき1.5時間程度を1回行った。

5.2.2 調査施設

 今回調査を行った施設は、株式会社日本ロングライフが運営する「ロングライフ神戸青谷」と「ロングライフ甲子園口」の2か所である。

※論文より切り抜き

※論文より切り抜き

※論文より切り抜き

5.2.3 聞き取り調査対象者の属性

 聞き取り調査を行った対象者(以下、回答者)は、80代後半の夫婦、単身女性5名(80代前半1名、80代後半4名)、80代後半の単身男性1名である。回答者のうちの単身者は、妻または夫が亡くなっていることにより1人暮らしである。また、回答者7組のうち1組は子供がいない。
 住み替え前の居住地は、回答者のうち5組が兵庫県内に居住しており、残りの2組は県外からの住み替えであった。しかし、県外から住み替えをした2組も兵庫県に居住した経験があった。
 子供がいる6組のうち、子供が近くに住んでいるのは5組で、回答者Fの男性だけが子供と離れて暮らしている。回答者Fの以前の居住地は、現在入居しているロングライフ甲子園口から近く、住み慣れた環境を変えることなく暮らすことができ、また、いつか自分の家に戻りたいという希望から、子供とも離れて生活している。

※論文より切り抜き

※論文より切り抜き

[回答者A]
 夫婦で入居。夫は介護を要する状態で、補助が無ければ歩く事が難しい。妻は自立して生活ができる状態で、家事や身の回りのことなど、自分でできることは自主的に行っている。夫婦の趣味は旅行で、元気な時は頻繁に海外旅行へ行き、その時のお土産をたくさん部屋に飾っていた。2人暮らしの為、部屋も74.36m2と広く、寝室と和室、ダイニングスペースがある。

[回答者B]
 ビリヤードやオシャレが好きで、身なりを整えたオシャレな印象の女性。視力があまり良くなく、以前の趣味であった洋裁など細かい作業が難しくなったことから、歌のレッスンに通うことを楽しんでいる様子。

[回答者C]
 90歳近いがiPadを器用に使ったり、娘に借りてきてもらったDVDを見たり、多趣味な女性。外出する機会も多く、衣服の数がとても多い。朝食、昼食は自炊している。

[回答者D]
 夫の仕事の関係で海外生活が長く、定年後は夫とハワイで生活していたという女性。夫が亡くなった少し後に日本に戻り、マンションで暮らしていた。ハワイからの引っ越しで苦労した経験がある。現在、不動産は海外と日本に持っており、子供へ財産として残す予定。

[回答者E]
 部屋に飾っている人形や使用している箱を自作するなど、手工芸が得意な女性。洋裁や編み物のほかにパソコンなどをする。まだ家を残してモノを置いている状態だが、甥に手伝ってもらって片付けをする予定。

[回答者F]
 男性単身者で甲子園口に長年住んでいる。ロングライフ甲子園口からもすぐ近くに家がある。1人での生活が難しいため入居をしているが、本人は「早く家に帰りたい」という希望が強い。しかし、美術大学に通う孫が、甲子園口の家に暮らす予定がある。孫の描いた絵を部屋に飾っていた。

[回答者G]
 子供がいない単身女性。以前は東京に住んでいたが、3姉妹の他の2人が関西にいることから引っ越してきた。引っ越しの際に必要なモノ以外をすべて処分した。俳句が趣味。はっきりとした口調で会話をしていて、笑顔が素敵な印象。

5.3 ヒアリング調査結果

 今回の聞き取り調査では、施設へ入居をしたきっかけや以前住んでいた家の状況、住み替えの時のモノの整理方法、持参品、手放したモノなどの話を伺った。

5.3.1 住み替えのきっかけと決断について

※論文より切り抜き

 住み替えのきっかけは、子供がいる6組は「子供に勧められた」からである。子供が施設への入居を勧めた理由としては、不測の事態にすぐに対応してもらえる所にいて欲しい、という思いからであった。
 回答者Bの場合、以前は名古屋の息子の近くで暮らしていたが、神戸にいる娘が面倒をみることを申し出たため、名古屋から神戸へ住み替えを決めた。
 回答者Gの女性は、夫が亡くなった後も東京で暮らしていたが、子供がいないため、入院の際に必要な身元引受人が関西で暮らす姉妹であり、姉妹が住む関西へ住み替えをすることを決めた。50年ほど前に西宮市の夙川付近に居住していたことから、ロングライフ甲子園口を選んだ。
 今回聞き取り調査を行った7組のうち、回答者Fを除く6組が「入居をして良かった」と感じている。本人が住み替えを決断した理由としては、自分自身でも体力に不安を感じることがある、子供に負担をかけたくない、助けてくれる人が近くにいて欲しい、などがあげられた。回答者Fは1人での生活が困難なため、本人は納得していないが入居をしている。

5.3.2 住み替えの際のモノについて

※論文より切り抜き

[回答者A]
 夫婦2人暮らしの回答者Aは、施設内での居住スペースは7組のなかで最も広く、収納スペースなども広い印象だった。住み替えにあたり、持参するモノは子供と一緒に選別し、いる、いらないの判断は子供達がテキパキと対応したと言う。2人だけではモノの整理や持参するモノの判断ができず、住み替えは難しかったと、子供のサポートに感謝していた。しかし、夫は大切にしていた家族写真やビデオテープ、パソコンなどを破棄されたことは少し根に持っている様子であった。ほとんどのモノは処分したが、持参できていない夫の趣味の絵画約100点は、会社の倉庫に保管している。家の処分も済んでいる。

[回答者G]
 本施設への入居にあたり、必要なモノ以外はすべて処分したのは、回答者Gのみであった。子供がいないことから、モノを残しておいても仕方が無いと判断し、モノは必要な分以外はすべて処分し、家も処分した。自宅のモノの整理は甥に協力してもらった。
 モノの整理ができたことは「本当にスッキリした!モノはいらない。また新しいスタートだから、どう楽しく過ごすかだけを考えている」と話していた。一方で、お墓については気がかりだという。1回目のヒアリングの際は、お墓を「永代供養」する予定ではあったが、まだ詳細が決まっていなかった。2回目に伺った時には、「永代供養」の日取りも決まり、安心していた。また、東京にあったお墓も今回の住み替えを機に大阪へ移動し、「永代供養」ができる寺に預ける準備をしていた。子供がいない為、自分がいなくなった後に、誰かに何かを残す煩わしさは全て消したかったそうだ。引っ越してきてからは「エンディングノート」を書き始めているとのことだった。

[その他の5組の場合]
 回答者Bは、本人としては全て処分したかったが体力や時間の面で難しく、作業途中で住み替えをすることになった。息子にも「整理をしたい」意志は伝えたが、「そのままで良いよ」と言われたそう。今でも一部整理ができていないことが少し気がかりである。
 回答者Cと回答者Dは、そのままの状態である。回答者A、C、Dの3組は、直前の住居で10年以内に戸建からマンションに住み替えを経験している。モノがそのままの状態である回答者C、Dは、マンションに住み替える際に多くのモノを処分した為、現状は「これ以上処分は考えていない」という。また、現在の限られた居住スペースでは、そばに置いておきたいモノをすべて揃えることは難しいため、以前の家に保管している衣服や本などを、定期的に家族に入れ替えてもらっている。今後も残してきたモノを整理する予定はないと言う。
 回答者Eは、モノを残してきたことに心残りと不安があった。回答者Eは尼崎市の塚口に家があり、姉妹の息子(甥)の協力を得て、少しずつ片付けを進めている。息子が2人いるが、遠方に住んでいるため、甥に手伝ってもらっているという。
 回答者Fは、家のモノはそのままの状態である。7組のうち唯一、「家に帰りたい」という意志を強く持っている。元気になって自宅で自由に暮らす為に、体力回復に努めている。家に帰る意志があることから、施設の部屋に置いているモノは必要最小限である。

〇家について
 直前の住居の状況について、回答者AとGは売却し、その他5組はそのままとのことであった。回答者Bは名古屋にある為、行くことができていないが、息子が処分を焦らなくてもいいと言ってくれている。回答者Cは、モノを保管する場所として残しておく必要があるそうだ。回答者Dもモノを置いている状態で、家は手放さず、子供たちに残す予定である。
 回答者Eは、家を残している状態を不安に思っているが、モノの整理が終わっていない為、そのままの状態にせざる得ない。回答者Fは、家に戻る予定である為、そのまま残している。それぞれの家は、荷物を残したまま「空家」状態になっている。

〈注釈〉
*55 日本ロングライフ(https://www.j-longlife.co.jp/aotani/)
  2016/2/23
*56 日本ロングライフ(https://www.j-longlife.co.jp/koushien/)
2016/6/10

*57 55 に同じ
*58 55 に同じ
*59 55 に同じ
*60 56 に同じ
*61 56 に同じ
*62 56 に同じ
*63 56 に同じ
*64 ロングライフ甲子園口現地にて筆者撮影(2016/3/28)

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