第1章 「整理収納」の課題と傾向
1.3 「整理」に関する出版書籍の傾向
「1.2」では近年の高齢社会における家族構成から「整理収納」の課題を確認した。「1.3」では、「整理」をキーワードに出版書籍を調査し、「整理収納」がどのような視点から関心が持たれてきたかを把握する。
1.3.1 書籍出版数と出版内容の分類
今回の調査では、一般社団法人日本書籍出版協会が運営する「Booksサイト*19」を使用した。Booksサイトより、タイトルに「整理」が含まれる書籍は計923冊あり、これらの書籍をタイトルと概略から10種類に分類した(表1.3-1)。タイトルに「整理」が含まれる書籍の中で、「資格・学習」に関する書籍が最も多く(図1.3-1)、「○○に関するポイント整理」のようなタイトルであった。今回はモノの「整理」に関する書籍を対象として出版年別に集計し、1~7に分類された書籍346冊から傾向調査を行った。

※論文より切り抜き

※論文より切り抜き
1.3.2 「整理」に関する書籍のはじまり
「整理」に関する書籍は、図1.3-2のグラフに示される通り1960年代に1冊出版されており、これは1963年に出版された加藤秀俊著『整理学 忙しさからの開放』である。加藤秀俊は1930年生まれ1953年東京商科大学卒、京都大学人文科学研究所所員、京都大学助教授を経て学習院大学教授、専攻は社会学、社会心理学である。この書籍の出版は、「おびただしい情報や資料の整理をこれから「どんなふうに整理するべきか」ということを、友人たちで会話していた話題から「いまや”整理学”の必要な時代やな」と友人と雑談したことがはじまり」とある*20。整理が難しくなる原因は、日々の忙しさと情報やモノの多さであることを提示し、社会で活用されている整理の方法を紹介している。また、「整理は整頓ではない」*21、「整頓は場所を移動した行動にすぎないことがある。」*22と述べており、整理の本質に関して言及している。本書籍の中で登場する「分類の原則」*23「共通の性質」*24「ものといれもの」*25「整理は秩序ある配置を与えること」*26などは、「整理」に関する書籍の先駆けとなっていると考える。

※論文より切り抜き
1.3.3 キーポイントとなった「整理」書籍
1980年代から徐々に「整理」に関する書籍の出版が登場し始め、2000年、2010年と大幅に増加してきたことがわかる(図1.3-3)。加藤秀俊の『整理学 忙しさからの解放』から20年後、田中恒子(1983)『新しい住生活』*27が出版される。田中恒子は、1941年生まれ、1963年大阪市立大学家政学部住居学科卒業、大阪教育大学名誉教授となる。本書では住生活と居住空間の関係について記している。
1993年はベストセラーとなった野口悠紀雄の『「超」整理法 情報検索と発想の新システム』が出版された*28。本書はビジネスパーソンへ向けた仕事効率のための「整理法」を提案している。この当時の職場には、パソコンが普及していなかった為、情報整理は書類が基本であり、業務は煩雑であったと推測できる。「整理」というワードは含まれていないが、2000年に、辰巳渚著『「捨てる!」技術』*29が大きな注目を浴びた。これまでの収納することによる「整理」ではなく、“捨てる”ことによる「整理」方法を紹介している書籍である。そして2009年に、昨今において「整理」の代名詞である「断捨離」という言葉が生まれた、山下ひでこ著『新・片づけ術「断捨離」』*30が出版される。「断捨離」とは、「家のガラクタを片づけることで、心のガラクタも整理して、人生をご機嫌へと入れ替える方法。」*31と、山下は説いている。さらに2011年に一大ブームとなった、近藤麻理恵著『人生がときめく片づけの魔法』*32では、「ときめくモノに囲まれた生活を送ると幸せになれる*33」という考え方が注目を集めた。
2000年代から「整理」に関する書籍が増加する一因として、1990年代後半頃に、近藤典子*34による「収納方法」を自分で工夫してつくる方法やDIY*35がテレビや雑誌で取り上げられるようになったことが考えられる。

※論文より切り抜き
1.3.4 「終活」の登場
「1.3.2」、「1.3.3」で示した書籍では、社会人向け、主婦向けの「整理」に関するものが多いことが分かる。高齢者を対象とした「整理」の考え方である「終活」の登場は、山下ひでこ(2009)『新・片づけ術「断捨離」』の出版と同年に、週刊朝日が連載した「現代終活事情」というタイトルの記事が始まりと言われる。「終活」は、「生前整理」など、墓地や葬式について生前のうちに準備すること、としている。また、中澤まゆみ(2011)『おひとりさまの終活:自分らしい老後と最後の準備』*36では、一人暮らしの高齢者「おひとりさま」へ向けて、終活に関する情報や知識を記している。著者は、「人生100年時代の長い老後では、どんなことが待ち受けているかわからない。そんな不意の事態にもあわてふためかず、前に進むチカラになるのは、日ごろから備えた知恵と情報。」*37と述べ、「おひとりさまの老後の見守り10か条」を提唱している。
このように、2009年頃から高齢期の「整理」が注目されるようになり、2015年には「実家・高齢・遺品」をキーワードとした整理本が最も多く出版されている(図1.3-3)。
1.3.5 まとめ
「整理」に関する出版書籍から、どのような観点で「整理収納」が関心を持たれてきたかを調査した結果の概略を図1.3-4に示した。
1963年、加藤秀俊により出版された『整理学 忙しさからの解放』が初期の書籍であった。のちに社会人向けの「整理」書籍である『「超」整理法 情報検索と発想の新システム』がベストセラーとなり、一般的に「整理」が意識されるようになった。また主婦層に向けた「整理収納」として近藤典子の提案がブームとなった。2000年に出版された『「捨てる!」技術』により、主婦層向けの「整理」が新たな方向へ展開し、その後も多くの書籍が出版された。2003年に「整理収納アドバイザー」*38という資格が登場し、2017年1月末時点で約9万人の取得者がいる*39。高齢者向け「整理」としてポイントとなった「終活」の登場により、人生の最期の迎え方を考えることが世間に関心をもたらした。さらに、一人暮らしの高齢者を示す「おひとりさま」について、終わりに向けた暮らし方を中澤は提案した。
このように、「整理」に関する書籍は時代とともに対象者の幅を広げていった。出版書籍数の変遷から分かるように、近年は高齢者を対象とした「整理」に関する書籍が注目されている。自身が高齢者になったときのことを考えて、「生前整理」や「遺品整理」について情報や知識を得ることは大切なことと考える。

※論文より切り抜き
〈注釈〉
*19 Books サイト(http://www.books.or.jp/)は、国内で発行され、現在入手可能な書籍を収録する書籍検索サイトである。Books の収録データは、2016年4月1日時点で423社の出版社が加盟している。各出版社から提供された書籍情報を、日本書籍出版協会の「データベース日本書籍総目録」 に蓄積し、そのうちの入手可能な既刊分、約98万点を検索できる。データは日次更新されている。
*20 加藤秀俊 (1963)『整理学 忙しさからの解放』中公新書,p1
*21 20 に同じ,p83
*22 20 に同じ,p84
*23 20 に同じ,p52
*24 20 に同じ,p54
*25 20 に同じ,p112
*26 20 に同じ,p178
*27 田中恒子 (1983)『新しい住生活』連合出版
*28 野口悠紀雄 (1993)『「超」整理法 情報検索と発想の新システム』中公新書
*29 辰巳渚 (2000)『捨てる!技術』 宝島社
*30 山下ひでこ(2009)『新・片づけ術「断捨離」』マガジンハウス
*31 30 に同じ, p5
*32 近藤麻理恵(2011)『人生がときめく片づけの魔法』サンマーク出版
*33 32 に同じ,p262
*34 近藤典子,住まい方アドバイザー,株式会社近藤典子 Home&Life 研究所取締役
*35 Do It Yourself の略語、自分自身で何かを作ったり修理したりすること。
*36 中澤まゆみ(2011)『おひとりさまの終活:自分らしい老後と最後の準備』三省堂
*37 14 に同じ,本文より
*38 2003 年ハウスキーピング協会により設立された資格。
*39 ハウスキーピング協会 (http://housekeeping.or.jp/) (2017/1/31)
2017年1月現在、整理収納アドバイザー資格取得者91,181名(うち1級取得者は6,461名、2級取得者は84,720名)











