第3章 高齢者と関わる仕事に従事する2者へのヒアリング
3.1 本章の視点
第2章では、高齢者のこれまでの暮らしにおけるモノとの関わりについて、『生活財生態学』のデータをもとに読み解いた。また、「モノの「整理収納」」に関するアンケートから高齢者独自の特性は見られず、年代問わず「モノが多い」という意識であることを確認した。
第3章から第6章では、高齢者の「整理収納」の課題について調査する。本章では、高齢期における「整理収納」の課題について、高齢者と関わる職業の2者に話を伺った。
3.2 高齢者住み替えアドバイザー岡本氏へのヒアリング
3.2.1 ヒアリング概要

※論文より切り抜き
岡本弘子氏。シニアの暮らし研究所代表高齢者住宅アドバイザー高齢者住宅の紹介業務に5年間従事し、1万件以上の入居相談に対応。現在は新聞・雑誌等の取材や執筆をはじめ、年200回以上の高齢者住宅セミナーで講演。シニアの暮らし研究所について、代表の岡本弘子氏は住宅メーカーのCS 推進部で生活研究に従事した。現在に至るまでの12年間、高齢者の「住み替え」に関する相談役を務めている。
[シニアの暮らし研究所 業務内容]
1 有料老人ホーム・高齢者住宅への入居に関する相談や紹介
2 高齢者とその家族、事業者、介護機関、地主等に向けた有料老人ホーム、高齢者住宅に関するセミナー講演
3 介護スタッフ向けの接遇研修
4 有料老人ホーム、高齢者住宅の開発や営業支援
5 シニア向け商品・サービスの企画開発のための支援
ヒアリング日時:平成28年3月4日(金)13:00-15:00
3.2.2 高齢者の住み替え時におけるモノの整理について
「住み替え」の際に生じるモノの整理について話しを伺った。
(1) 高齢になるにつれて、モノに対する気持ちはどのように変化するか?
岡本氏:モノに対する執着は無くなると感じる。若い時の価値観とは異なり、高価なモノが良いとは限らず、値段の価値ではなくなる。住み替え先の住居環境については、立地は問われるが間取りや設備の仕様についてこだわる人は少ない。設備の有無について気にする人はいるが、サービスなどのソフト面での内容であるため、モノに対する要望などは二の次となる。家自体も、持ち家から借家へと移行することになり、「執着」が無くなるというより「愛着」が無くなる、というように認識している。
(2) 住み替えの際に、処分で困るモノはあるか?
1 服
岡本氏:80代くらいの高齢者であれば、洋服よりも和装の処分に困る人が多い。特に和装は高価であるため、「捨てたくない」という気持ちが強い。人に譲るなど活用手段があると良い。
2 食器
岡本氏:食器は日常的に使用するものと来客時に使用するものあり、来客用食器などは高価であると捨てづらいと考えられる。
3 本
岡本氏:男性で多いのは「本」である。一般的な本の場合は、ネットで引き取りが可能だが、専門書や研究本など一般に流通しない本などは引き取り手が少ないため、貴重な本も処分せざるを得ない場合がある。
(3) 最終的な処分方法は?
岡本氏:住み替え前に、必要なモノを一通り確認してもらい、残ったモノに関しては、処分業者に引き取ってもらうか、家が不要な場合は、家の解体時に一緒に取り壊してから処分する場合がある。
(4) モノに対する考え方の個人差はあるか?
岡本氏:思い出の品については、女性は潔く処分するが、男性は母や妻に関するものを手放せない人が多い印象がある。モノが多いほうが安心する人もいれば、モノが多いと厄介に感じ、少ない方が安心する人もいる。ゴミ屋敷までいくと精神疾患や認知を疑うことになる。
(5) 住み替え方法は?
岡本氏:家族に手伝ってもらう場合や、単身の方は業者やプロに任せる場合がある。
(6) 住み替え先のモノについては?
岡本氏:住み替え先でどれくらいのモノが入るかは想定することが難しい。どうしても持って行きたい場合は、全てモノを持ち込み、入らない状況を理解してもらうことになる。「やってみないと納得できない」というのが高齢者にみられる傾向である。
(7) 高齢者施設に入居する際の家については?
岡本氏:家にモノを残したままの人は最後までその状態である。
3.2.3 高齢者の住み替えについて
(1) 住み替えの傾向は?
岡本氏:セミナー参加者は60~70代が多く、郊外戸建から都心マンションへの住み替えが増加傾向にある。商業施設や病院がある都心への引越しを考える人が増えてきた。また、都心へ引っ越す人は一括現金購入のケースもよく見受けられる。
(2) 住み替えのタイミングはいつか?
岡本氏:今は元気だが、いつ身体が不自由になるか分からない、そうなってからでは遅いのか?どのぐらい前に準備しておくのがよいのか?といった質問は、セミナー参加者からもよく聞かれる。一人暮らしや高齢夫婦のみで暮らすタイミングを早めに伝えたとしても、実際に差し迫っていないと動くことは難しい。しかし高齢になるほど「住み替え」に対する不安がより高まるため、自分が元気な時に決めることを勧めている。
3.2.4 その他
その他、高齢者の住み替えに関して、注目すべき変化がみられるか伺った。
(1) 団塊の世代の要望
岡本氏:団塊の世代は「今後どのように終わりを迎えるか」という考えよりも「今どれだけ自由に暮らせるか、快適に暮らせるか」といった考えを持つ傾向にある。そのため、高齢者施設のサービス内容に対する要望が増えている。以前は、高齢者は「年をとったから我慢しよう」という考えのようだったが、団塊世代は「我慢しなくて良い」と正直な気持ちを表しているように感じる。
(2) 施設のサービス
岡本氏:自宅に住みながら施設へ通う人やセカンドハウスとして使用する人も増えてきており、「セカンドハウスプラン」なども登場している。今後もこれまでとは異なるサービスが求められるようになると考えるが、施設が新しいサービスに対応できないケースや、施設の入居率への影響など、新たな問題への対応が懸念される。
〈注釈〉
*52 シニアの暮らし研究所,http://www.shinia-kurashi.jp/(2017/2/2)











