イタリア時間でびとくらし

イタリア時間「隙間をつくる心地よさ」

イタリア生活で見つける「びとくらし」

イタリアでの日常生活の中にある、すこしだけ幸せに感じたり、すこしだけリラックスできたりするような「びとくらし」的な出来事を、マルケ州アンコーナ住まいのライターが紹介します。

イタリアに暮らす彼女の話しを聞いていると、度々、イタリアでは日本と全く違う時間が流れているように感じることがあります。しかもとても豊かな時間でした。時間の流れの違いの中に豊かさの理由が隠されているように思えてなりません。ぜひ、この理由を一緒に探してみませんか?

隙間をつくる心地よさ

今年の春から初夏にかけては基本的に自宅に籠もり、出かける機会は殆どなかったのですが、
なぜか車の鍵を紛失してしまうという事態に陥りました。
情けないやら悔しいやら、スペアキーはあったので日常生活に支障をきたすことはなかったのですが、
悲しんでばかりはいられないので、6月の初旬に鍵の複製をディーラーさんにお願いしました。
担当者が言うには「普段ならば1週間程度で出来るけど、今はコロナウィルスの状況もあって10日程度はかかるかも」とのこと。
事情はもちろん納得すべきものですので、オーダーをして連絡を待つことにしました。
さて、皆さんの想像に易いとは思うのですが、待てども待てども電話はならず。
イライラとする心を「ここはイタリア」と念じて心を鎮めるように努めましたが、
どうしても我慢ならずオーダーしてから約1ヶ月半ほどが経った7月半ばに連絡を入れたところ、
「電話をこちらからしていないならば、まだ鍵は出来ていないということ。待つしか無いよ」と、まぁ、なんとも釣れないものでした。
日本での顧客対応と比較しようものなら雲泥の差ではないでしょうか。

「待つしか無い」と言われたら身も蓋もなく再び待ってみることに。
とは言いつつ、本格的な夏休みが始まる前にどうにか片を付けなければと思い立ち、
最終兵器であるイタリア人夫をこの交渉に投入し、事態の展開を試みてから今で約3週間が経ちました。
今の状況はと言うと、私の手元にはまだ鍵は到着しておらず、
それどころか新しく完成したはずの鍵が今どこにあるのかわからない状況に陥っているのです。
オーダーして3ヶ月が経つのにこの状況って、さすがここはイタリアだと思わずにはいられません。

郷に入れば郷に従ってみよう

この出来事で何に驚いたのかというと我がイタリア人夫の対応の仕方と捉え方です。
本来ならばクレーム口調の電話になっても致し方ない状況だと私は思うのですが、
とても穏やかに相手とおしゃべりを開始し、相手のブラックジョークにも「あはは、そりゃぁ嫌になっちゃうよね」なんて軽口をたたきながら楽しげにおしゃべりをします。
さすがおしゃべり上手なイタリア人だ、とここでも感心するわけですが(前回のエッセイを参考下さい)、
最終的に「新しく完成してきたはずの鍵が、今、ディーラー事務所のどこにあるのかわからない」という内容のことを相手から告げられても「それなら仕方ないね、また探して連絡して」と電話を静かに切るのです。
1度だけならまだしも、少なくとも3度は同じ対応を受けているのですが、どの場合も対応温度は同じで、穏やかに「また探してから連絡して」と電話を切るばかり。
このままではニッチもサッチもいかないから、対応策を講じるように相手に伝えるように夫にお願いしたところ、「今、相手はどうにもならない状況に陥っている。彼らに何を言っても無駄だから待つしか無い」と言われる始末。
彼が言うには、四角四面に正当性を武器として、理詰めで相手と交渉しても状況は悪化していくだけなので、相手からの前向きな提案があるまでは、のんびり待つしか無く、結局はそれが一番の解決方法なのだどか。
小さなことにクレームを入れるような無様な姿を他人に見せるのは恥だ、というイタリア的な意識も少なからずはあっての対応だとは思うのですが、この「どうしようもないものはどうしようもない」と思い切れる諦めの良さが大切なことを痛感したのです。

時間にも心にも必要なもの

打開策が見つからない問題にぶち当たったとき、日本では企業や個人の責任性を求めることがよく見受けられます。
イタリアでは「しようがないこと」と受け止めて、その後は流れに身を任せるのが一番なようです。
状況を打開しようと話しを詰めようとしても、糠に釘、豆腐に鎹の状況で好転することは無く、逆に相手から「面倒くさい」と疎まれてしまう可能性の方が高いのでおすすめできません。
あえて「隙間」を与えてあげることで、お互いの関係がギスギスすることなく円滑に進むことも多くあります。
さらには自分自身が相手から何かを許してもらっている機会が多くあることにも気づきました。
待ち合わせの時間や、締め切りの時間などの融通のつけ方をみてもよくわかります。
もちろん、度を過ぎたものは眉唾ものですが、いつもより少し時間や心に隙間を持つことで、自然と全体的に余裕がうまれます。

人を少し許すことで、自分のことも許してもらえる機会が増える。
甘えのように思えますが、見方を変えると思いやりの一種とも受け止めることが出来ます。
隙間を持ち、それを共有すること。
それはイタリア人が他人とうまく生きていくための一つの手段なのかも知れません。

マルケ州の名所めぐり(3)アンコーナの名所、ポルトノーヴォエリアにある二人の姉妹 DUE SORELLEと呼ばれる2つの岩。息を呑むような美しい海岸で有名です

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Atsuko Niwa 丹羽淳子

イタリア マルケ州在住。現在はワインや蜂蜜を日本に輸出する業務に携わり、翻訳やアテンド業を行う。

出版広告業界を経て、不動産業界の広報・採用業務に携わり、40歳目前に違う世界を見てみたくなりワイン業界へ転身。イタリアワインのエチケットを理解したいと思いイタリア語を習い始めたことをきっかけから最終的に41歳の冬にイタリアに渡り、現在で6年目に至る。

AIS認定ソムリエ、WSET Level2(ワインを理解するうえで不可欠な知識を得ることを目指すイギリスの資格)。

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