写真で日常を切り取る、びとくらし。
写真家ならではの視点や、景色の切り取り方、毎日の暮らしぶりを写真と文章で伝えいただきます。
スマートフォンの普及で写真を撮る機会が多くなった昨今ですが、何を写すか、どう感じるか、など、写真家の嵐さん自身を優しく感じることができる心地の良いエッセイです。
「森の道」
なんだかちょっと涼しいなと感じる、雨上がりのくもりの日。
朝のうちに、こんど撮影する場所の下見で近くの森へ出かけようと、動きやすい服装に着替えました。
デジタルカメラのバッテリー容量を確認すると、残り少なめの表示。
ちょっと考えて「今日は節電。無駄なシャッターを切らず、撮りたい被写体を集中して撮ろう。もし電池がなくなったらそこで切り上げよう」と、重たい予備バッテリーを持たず、たくさん歩けるようにと、できるだけ軽装備になるよう支度を整えました。
外へ出ると、街路樹や植込みのお手入れの日で、夏の間にぐんぐん伸びた木の枝や草を、チェーンソーでばりばり刈っていくにぎやかな音が、遠慮なくあたりに響いていました。
30分ほど歩き、街から離れて森にだんだん近づくと、すっかり静かな環境に。
木の上からはツクツクボウシの鳴き声、木陰からは秋の虫たちの演奏が聴こえてきました。
森の入り口に、季節の最後をむかえている青い露草(つゆくさ)がたくさん咲いていました。お花は早朝に開いて夕方にはしぼんでいるので、午前中が見ごろです。
露草はクセが無く、野菜と同じようにおひたしや和えもの、炒めもの、サラダの飾りなどにして食べることができるそうです。
いつか挑戦してみたいと思いつつ、このまま私たちの目を楽しまして欲しいなとも思い、摘まずにそっと見るだけにしました。
坂道を山砂利や枯葉を踏みながらのぼっていると、緑色や茶色のバッタが左右にぴょんぴょんと跳ねて、靴で踏んでしまいそうなのを避けてくれました。
その大ジャンプに毎回ビックリしながら、山からの景色を眺めながら水分補給したり、彼岸花の蜜を吸う昆虫を観察したり、沢に集まる雨水の流れる音を聞いたりと、目的地までつづく道を歩いていきました。
森は雨を吸った土と木々の香りのとても良い香りで満たされていて、普通に歩いているだけで胸にたくさん空気が入ってくるようでした。
前を行くひとが手を広げて伸びをされているのが見えて「ほんとうに気持ちの良い空気ですね」と、心のなかで同意しました。
森の入り口に立ったときは、情報が少ない目的地に無事にたどり着けるか不安だったのですが、思いがけずの森林浴ですっかりリラックスすることができました。
しっかり汗をかいたころ、スマートフォンの万歩計を確認すると、約一万歩。
たくさん歩けて、目的地までたどり着いて、目標ふたつともが達成できて充実した時間となりました。
撮影本番の日、また少し季節が進んだこの森に来ることを、今から楽しみにしています。