写真とエッセイ「アサギマダラに会いに」

写真で日常を切り取る、びとくらし。
写真家ならではの視点や、景色の切り取り方、毎日の暮らしぶりを写真と文章で伝えいただきます。
スマートフォンの普及で写真を撮る機会が多くなった昨今ですが、何を写すか、どう感じるか、など、写真家の嵐さん自身を優しく感じることができる心地の良いエッセイです。

「アサギマダラに会いに」

10月のはじめごろ、近くの森へ「旅するチョウ」「渡りチョウ」として有名な「アサギマダラ」に会いにいってきました。

先月の記事「森の道」で下見撮影にいったとき、森の中の看板に「アサギマダラの飛来について」とお知らせがありました。

アサギマダラ… 合唱曲の「蝶が海峡を渡る」のモデルのチョウで、関西でもその飛来がニュースになったり、某人気アニメに出てくる「蝶屋敷」に登場したり、その名前はよく耳にするものの、実物はまだ見たことがありませんでした。

アサギマダラは長距離を移動する不思議なチョウで、春に沖縄・台湾などで羽化して北上、秋には日本各地で羽化した個体がいっせいに南下し、本州を横断しているそう。
その移動は30年以上前から調査されていて、中には約3ヶ月をかけて、和歌山県から高知県を経て香港までの約2500kmを移動した、という記録もあるそうです。

昆虫は得意ではないのですが「こんな身近に誘蝶(ゆうちょう)している場所があるなら、わたしも見てみたい!」と、その時期を楽しみに待ちました。

そして、もうひとつ見たことがなかった「秋の七草」の「フジバカマ」。
春の七草は食べる野菜たちですが、秋の七草は鑑賞する草花たちです。

フジバカマは古い時代から鑑賞に生薬にと親しまれていたそうですが、いまは自生地だった川辺や斜面の整備で環境が変わり、自然にはほとんど見られなくなっているそうです。

このお花はアサギマダラが好む蜜のひとつで、長い旅の途中に立ち寄れるよう、以前から森の一部に場所づくり、苗づくり、植付けをして準備されていたとのこと。そのような場所は他にも全国各地にたくさんあるようです。

フジバカマが開花した、と情報が入ったのでさっそく出向くと、うすいピンクのかわいらしい小さな花が咲き始めていました。

その周りには5、6匹ほどのアサギマダラが、ふわりふわりと優雅に舞っていました。
そこにいた他のチョウとスピードを比較しても、とてもゆっくりに見えます。

大きさはハネを広げると10cmほど。
ハネについている鱗粉(りんぷん)が少ないそうで、模様のアサギ色(明るい青みどり色)の部分は半透明に透けていて、とってもキレイでした。

うつくしい姿と、人が近づいても怖がらずに蜜をゆったりと吸っている様子が「人懐っこい」と人気の理由のようです。

小学生さんがオスとメスの見分け方を教えてくれたり、撮影に来ていたかたがご自身の写真作品を見せてくれたり、遠方からわざわざ来られているかたがいたり、皆さんの熱心さが伝わってきました。

「フジバカマが満開になったら、もっとたくさんの乱舞が見れるかも」と予測されていて、数日後に再訪しようと計画しました。

でも残念ながら…訪れた日の暑かった気温や時間などの影響で、あとすこしのところでタイミングを逃しました。

すれ違ったひとが「山の上の影のところは涼しいから、まだたくさんいるかも」と教えてくださり急ぎましたが、いたのは2匹ほど。多くは次の場所へと旅立っていったあとでした。

どうやってお花の場所がわかるんだろう。どうやって目的地を決めるんだろう。どうやって長い時間を飛ぶことができるんだろう。謎が多いアサギマダラです。

期待していた乱舞を見られなかったのはちょっとがっかりしましたが、知らなかった眺めの良い場所や、あらためてじっくり見た昆虫たち、秋がすこし深まった山の様子、そこにはたくさんの人が関わって心を尽くされていることが知れて、アサギマダラを通してたくさんのことを教えてもらいました。

次の場所はどこへ飛んで行ったのかなぁとネットで検索すると、あちこちで飛来の一報が流れていて、皆さんが心待ちにしていた様子がうかがえて、明るいニュースに心も明るくなりました。

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Shoko Arashi 嵐祥子

2009年、デジタル一眼レフの面白さを知り「写真を撮ること」に興味を持ち、写真表現大学で作品制作を学ぶ。 その後、ウェディングフォトに従事、2012年からフリーランスカメラマンとして活動中。2015年から一児の母です。

https://arashishoko.localinfo.jp

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