イタリア生活で見つける「びとくらし」
イタリアでの日常生活の中にある、すこしだけ幸せに感じたり、すこしだけリラックスできたりするような「びとくらし」的な出来事を、マルケ州アンコーナ住まいのライターが紹介します。
イタリアに暮らす彼女の話しを聞いていると、度々、イタリアでは日本と全く違う時間が流れているように感じることがあります。しかもとても豊かな時間でした。時間の流れの違いの中に豊かさの理由が隠されているように思えてなりません。ぜひ、この理由を一緒に探してみませんか?
今年の夏はちょっと違う
この見出し、何事かと言うとわたくしごとで恐縮なのですが、夏が始まる前に転職を決行しました。
イタリアと日本を結ぶ輸出サポートの仕事などはそのままですが、ここイタリアでの働き先が、もともとはワイン卸しの会社だったのですが、この夏からは飲食業勤務となりました。
イタリアに来たばかりの頃に、レストランスタッフとして短期で働いたことはありますが、正規雇用で働くのは初めての経験。現在はレストランにて「Cameriere」をしています。
レストランでお客様へのサービスを担当する仕事は「Cameriere カメリエレ」と呼ばれ、ここでは一つの職種として成立しているように感じます。と言うのも、日本ではこの手の仕事は若い方のアルバイト職というイメージが強いですが、こちらではかなり年配の方の姿もよく見かけ、彼らのプロフェッショナルな働きぶりが垣間見られます。イタリアに旅行された際にレストランなどで、年輩の方にサービスを受けた経験があるかたも多くいらっしゃるのではないでしょうか?
実のところ私の職務はCameriereではない仕事なのですが、イタリアらしく全ての計画が後ろ倒しにずれこんでおり、実際の任務場がいまだ未完成。急場のしのぎとしてレストランでCameriereとして働いている次第です。
ですので、この数週間で体験、認識した夏のお仕事についてご紹介させていただきますね。
季節労働の普遍性
私が住むマルケ州は、アドリア海に面し沿岸の長さは150㎞ほどで、そのほとんどが海水浴が楽しめる浜辺になっています。そのため夏場は近所に住む人から北欧に住む人までがバカンスを楽しみにやってきます。
イタリアのヴァカンスシーズンを語る前に知っておきたいのが学校の夏休み期間ですが、今年なら6月の2週目から9月の2週目まで。おおよそ3か月間となり、親たちもそれに合わせて休暇を消化しますので、この期間はイタリアではざっくりと「夏シーズン」というイメージになります。
浜辺には夏シーズン限定のレストランやお店が数多く開店し、今私が働いているレストランもその一つ。また、夏だけオープンするホテルも少なくありません。
そのため、期間限定で働く「季節労働」者の数も多く存在しています。現に、私の職場でも何人かのスタッフは雇用期間中は基本的に休みをとらずひたすら働き、秋以降はパートタイム的な仕事をしながら冬のヴァカンスを楽しむようです。
そうそう、観光地のローマやフィレンツェに行くと、夏に一か月間お休みしているレストランとか見かけますよね。これは「夏は働きたくない」という怠惰な気持ちからではなく、近隣の居住者たちがヴァカンスに出かけ、人気が少なくなる夏の間はお店を閉めて、客足が戻る時期にしっかり働こうという合理的な判断に基づくものなのです。
年末年始も休みなくオープンする店舗や、24時間営業のコンビニエンスストアの存在が普通化してしまっている日本との違いは大きいのですが、どちらがより幸せなのか、みなさんならどう感じらるでしょうか?
サルディーニャ島のレストランで名物のチーズ、カース・マルツゥを紹介してくれたCameriere
働く現場の実情は如何に
イタリアの職場のリアル、実際に働いて知ったこと、改めて実感したことが沢山ありました。
まずは労働契約の締結の難しさ。雇用条件も厳しく、正規契約以外での雇用が多く存在し、被雇用者にとってデメリットな場合が少なからずあります。
そして、スタッフは多国籍。共通語はイタリア語ですが、中にはイタリア語が読めない人もいますし、私も含め、母国語のように完全に使いこなせない人も多くいます。労働力が安い移民の人たちを雇用することはオーナー判断としては当然の事でしょうし、それぞれの国籍ごとにそれとなく職務がカテゴライズされているのが興味深いものです。
Camerieraという職務に年配者の姿が多くみられると書いたのですが、私の職場では私が最も年長者で、しかも他のスタッフとの差はかなり大きくあり、高校生の子たちも多く働いています。ただ、働いている高校生たちも夏休みだからという理由であって、日本の様に学校帰りにアルバイトをしたりということはほぼありません。年代的に大きなギャップのある若者たちと共に働いているわけですが『年上だから敬う』いう考えはこれっぽっちも無くまるで同世代の仲間のように接してくる彼ら。「あぁ、仲間はずれされなくてよかった」と若者たちに感謝の念すら感じずにはいられません。
さて、働き方についてですが、彼らの基本は「個人主義」。自分さえ良ければ良く、チームワークを重んじるという発想はかなり乏しい。そんな彼らの中で上手に働くことはなかなかハードルが高く、時間配分が出来ない、先の見通しが出来ない、次の(次に使う)人のことを考えられない、というイタリアらしい働きづらさもあります。批判することは簡単ですが、とりあえず受け流すように心がけています。
7月も二週目ですが、まだ暑さも人出も続きます。
ただ、コロナウィルスが蔓延し、長い間娯楽から遠ざかっていたからか、この夏はヴァカンスしたいという人が多いようで、期間労働者としての働き手が見つからないということ。
多くの人が失業しているはずなのですが、ヴァカンスをする前に入り用なものがあるのではないのかしら?と他人事ながら心配してしまいます。
そうそう、日本と異なる点で言うと多くのレストランが夏場は屋外席を設けること。私の職場に関して雨が降らない限りはほぼ100%が屋外スペースでの飲食となり、結果、炎天下や猛暑のなか、お客様へのサービスを行うことになります。
このことが、言語の難しさなんかよりも冷房慣れしている日本人にとってイタリアで夏に働く際の何よりも厳しい条件に挙げられるのではないでしょうか?