写真家からみえる景色

「思い出をたどる日」

写真で日常を切り取る、びとくらし

「びとくらし」のトップのメイン写真をいつもご提供いただいている、嵐祥子さん。
いつもの日常も切り取り方、感じ方次第で特別な日になることもたくさんあります。
そんな切り取り方を少しのぞかせていただきます。

「思い出をたどる日」

ここ関西地方では例年になく長く、桜を楽しめました。気持ちの良い風がふき、散っていく花びらがくるくると舞っています。

以前から訪れたい場所があり、ひとりで出かけることにしました。

遠いむかし、父とお花見に行った場所がとてもきれいだった思い出があります。そこをもう一度訪れてみたいと思い返しては、何度も春が過ぎていました。

父と二人で出かけたことがほとんどない記憶の中で、ひときわ強く印象が残るその光景。

また別の日、小学校の春のハイキング遠足でその近くまで訪れ、新緑がきれいだったことも覚えています。

わたしの記憶に残っていたその場所の情報は「三田市から近く、水道局のような施設の公園で、入り口に石づくりの門があり、桜がきれいだった」こと。

インターネットで調べると、神戸市北区道場町にある「千狩り貯水場」と5分とかからずに判り、ネットの便利さに拍子抜けして、ひとり笑ってしまいました。

朝のうちに行ける日にと、天気予報とにらめっこしながら出発を決めたのは、4月の3週目。
「すっかり印象が変わってしまっているかな、何かを思い出せたら面白いな」と、期待と不安がないまぜで向かいました。

貯水場へはJR宝塚線「道場(どうじょう)駅」から徒歩で約2、30分。武庫川沿いを撮影しながらゆっくりと歩きました。
対岸には見事な山桜が連なり、満開でしたが、わたしの他に観るひとはいません。

川のそばで育ったので、川と草木の混ざった匂いをかぐと懐かしく、水辺で遊んだ記憶がよみがえりました。

貯水場の門が開かれ、広場が一般解放されるのは「千狩り桜まつり」が開催される期間、4月のはじめ1週間ほどとのこと。訪れた日は終わったあとの静けさで、ハイカーもまばらでした。

それでも貯水場のまわりは、遅咲きの桜と新芽をつけた木々に囲まれてうつくしくかがやき、目を奪われました。

当時、父はここへ何気なく連れて来てくれたのかもしれません。

いまの何気ないことが、もしかするとずっと記憶に残る、残り続けて欲しいような時間になるかもしれないんだな、と思いました。

「いつか桜まつりのときに、家族や友達と一緒に来られたら良いな」。
楽しみをひとつ自分へのお土産にし、もと来た道を、またゆっくりと帰りました。


嵐 祥子 Arashi Shoko

2009年、デジタル一眼レフの面白さを知り「写真を撮ること」に興味を持ち、写真表現大学で作品制作を学ぶ。

その後、ウェディングフォトに従事、2012年からフリーランスカメラマンとして活動中。2015年から一児の母です。

arashi.shoko@gmail.com

https://arashishoko.localinfo.jp/

カテゴリー内の最近更新された記事

  • 暮らしのそばにある折形

    日本から出て知った大切なこと、そして折形との出会い

    日本から出て知った大切なこと、そして折形との出会い 日本には数多くの伝統文化が継承されています。 私達の生活で自然と受け継がれ、その由来に気づかず慣れ親しんでいるものも多くあり、 その一つに「折形-おりかた」があります。 […]

  • 【セミナー】整理収納と記憶整理術セミナー

    整理収納と記憶整理術セミナー 講師:小林朗子 他

    びとくらしサイトでのコラム、またサイトの主催者である小林朗子さんがWAWORKとして整理収納に関するセミナーを開催されます。 ご興味のあられる方はぜひご参加ください。 以下開催内容の詳細です。お申し込みはこちらをクリック […]

  • イタリア時間でびとくらし

    イタリア時間「隙間をつくる心地よさ」

    イタリア生活で見つける「びとくらし」 イタリアでの日常生活の中にある、すこしだけ幸せに感じたり、すこしだけリラックスできたりするような「びとくらし」的な出来事を、マルケ州アンコーナ住まいのライターが紹介します。 イタリア […]

  • 【お教室】折形−おりかた (第二回目)

    「暮らしのそばにある折形」の連載にご登場いただいています小池博美先生のお教室の大二回目が令和2年9月30日に開催されます。 今月から年末にかけて年始のお飾りを学部事ができます。 ご興味のあられる方はぜひご参加ください。 […]

  • 旬の野菜でひとつきひとくぎり

    今月は「銀杏」

    暑さがまだまだ残りますが、9月になりました。 すっかり涼しくなったとはなかなか表現できない本年ですが、 静かに秋の到来を待ちたいものです。 季節が変わるように、食の中にも「旬の食材」があります。 しかしながら、毎日を慌た […]

  • 美徳と暮らしでbitokurashi

    手放すことで生まれる循環

    bitokurashiの主宰者小林朗子さんは整理収納コンサルタント。 単に住まいの整理を助けるという役割で終わるのではなく、整理するターゲットを住まい、ひと、街とへと広げ全体を俯瞰し、ひとの暮らしについて深く研究されてい […]

  • 【お教室】折形-おりかた

    今月の折形 : 香包(こうづつみ)など

    8月に当サイトで新しく「暮らしのそばにある折形」の連載が始まった、小池博美先生のお教室が令和2年9月9日に開催されます。 8月に第一回目のお教室がありましたが、参加者数が定員にすぐに達してしまったため、 今回は第一回目と […]

  • 写真家からみえる景色

    「残暑の光」

    写真で日常を切り取る、びとくらし 「びとくらし」サイトトップのメイン写真をご提供いただいている、嵐祥子さん。 写真家ならではの視点や、景色の切り取り方、毎日の暮らしぶりを写真と文章で伝えいただきます。 「残暑の光」 &n […]

  • 暮らしのそばにある折形

    日本の「つつむ」という生活文化「折形」

    日本の「つつむ」という生活文化「折形」 日本には数多くの伝統文化が継承されています。 私達の生活で自然と受け継がれ、その由来に気づかず慣れ親しんでいるものも多くあり、 その一つに「折形-おりかた」があります。 「折形-お […]

  • 暮らしと空間をデザインする

    観葉植物とつくる希望の空間

    インテリア探しやお部屋づくり、楽しくてわくわくすることですが、実際にはなかなか自分が思うように出来なかったことはありませんか? 空間デザインやインテリア製作コーディネーターとして活躍する小倉直美さんに、インテリア選びやお […]

  • イタリア時間でびとくらし

    イタリア時間「おしゃべり上手の秘密」

    イタリア生活で見つける「びとくらし」 イタリアでの日常生活の中にある、すこしだけ幸せに感じたり、すこしだけリラックスできたりするような「びとくらし」的な出来事を、マルケ州アンコーナ住まいのライターが紹介します。 イタリア […]

  • 旬の野菜でひとつきひとくぎり

    今月は「べいなす」

    台風の到来がゼロに終わった7月、観測史上初めてのことだとか。 毎年少しずつ現れる気候の変化が気になるここ数年ですね。 季節の移り変わり。気温の変化や外の色の変化など、様々な光景で季節を感じています。 食の中にも「旬の食材 […]